HERR*SOMMER-夏目

現代ドイツ作家・詩人の紹介を主に・・・

*韻律学 ⒓ メフィストフェレスの闖入 ゲーテ「ファウスト」第二部第三幕 より

・9419- 34行: Phorkyas

次のフォルキアスの台詞は、トロケーウス、揚抑・長短格の4脚で書かれ、パロディー化しつつ韻を反復している。zB.21行までは3回、9422行以下は3行ごとに5回、韻を踏んでいいる。例えば、こんな風に:Fiebeln-Liebeln-Grubelnと3回、そしてZeit- weit-Streit- Geleit-bereit,  ...       usw....

ところで、この幸福なヘレナとファウストのまたとない運命の出会いの一瞬に闖入してくるのは、実は、悪魔フォルキアスに扮したメフィストフェレスである。

9413 ~ :

   恋のいろはの 手習いも 結構!..

 戯れつつ 色恋の 穿鑿(せんさく)も するがよかろう

 そして 穿鑿しつつ 暢気(のんき)に 色恋を するがいい

 だが いまは そんなときでは あるまい

 遠雷の 轟く音が 耳に入らぬわけでも あるまい

 ラッパの 高らかな 響きが 聞こえぬわけでも なかろう

 破滅が 目の前に 迫っているのですぞ

 メネラス王の 大軍が 

 攻め寄せて 来ているではないか

 激戦は 必至!.. 決して 避けられは しないのですぞ

 絶世の 美人との 戯れた 時間のロスには

 四面楚歌は 必定!.. 勝ち誇る 軍勢が 相手では

 ダイフォブスのように 斬り刻まれて しまうのですぞ!!...

                ***

*Daiphobus: ダイフォブス

       ギリシア神話。スパルタの王子・パリスの弟で、兄の死後、ヘレナと結婚し、メネラスに殺された。

(*因みに、パリスはメネラスの妃・ヘレナを奪い、その為、トロヤ戦争が起きた。)

         9422- : Doch dazu ist keine Zeit.

                     Fuhlt ihr nicht ein dumpfes Wettern ?

                     Hort nur die Trompete schmettern,

         9425-:  Das Verderben ist nicht weit.

                     Menelas mit Volkes-Wogen

                     Kommt auf euch heran-gezogen;

                     Rustet euch zu herbem Streit !...        usw...  

 

*韻律学 Metrik  ⒒ 「ファウスト」 第二部第三幕 より

前回はヘレナとファウストの愛の告白の場面だったが、それを讃える合唱部,Chor:9385-9410行は、トリアーデ、即ち、1.シュトローフェ2.アンチシュトローフェ、そして3.エピシュトローフェの構成で書かれている。

・9401~

 お二人は 次第に 

 身を 寄せあい 

 立派な 玉座の間で 

 肩に 肩を 寄せ 膝と膝を 

 つき合わせ 手に手を とりあい

 たがいに 凭(もた)れあいながら

 お座りになって いらっしゃいます

 そして お上にも お控えに なられることなく

 秘かな お愉しみに なられ

 人目も 憚ることなく 

 隠さず お見せになって いらっしゃいますのね・・

    ***

       Nah und naher sitzen sie schon

      Aneinander gelehnet,

    Schulter an Schulter ,Knie an Knie,

     Hand an Hand wiegen sie sich

         Ueber des Throns.....

 

 

*韻律学 Metrik 10 愛の告白 「ファウスト」第二部第三幕 より

*9377- 84行 :Helena und Faust

 

  この箇所はヘレナとファウストとの愛の告白の場面で、毬を互いに投げあい受け取るように、言葉と意味を交わしながら、二人の心がやさしく結ばれてゆく。韻はヤンブスの5脚で、無韻のブランクフェルス、そして脚韻はパールライム、即ち、aabbで書かれている。

 ・ヘレナ :ねえ どうすれば あのように 美しく お話しできるのかしら。

 ・ファウスト: それは ごく やさしいこと つまり 言葉は 心から 発するのです そして 胸に 恋しい憧れが 溢れ出たら 振りかえりみて 問うがいいのです

その楽しみは 誰と?...

 ・ヘレナ : 互いに 享受しているのかと・・

 ・ファウスト ;来しかた ゆく末は もはや こころからは 消ゑて ただ あるのは 今 この時だけが

・ヘレナ : ふたりの 幸せ なのですね

ファウスト: その通りです この刹那こそ 愛という 貴く 気高い 授かりものを 享けているとき・・

ところで 愛の担保の 裏書きを してくださるのは どなたですかな ?.・・

       ・ヘレナ: もちろん わたしの 手によって・・

 Vgl. zB.

 So sage denn, wie sprech' ich auch so schön ?..

 

        Das ist gar leicht,  es muss von Herzen gehn.

Und wenn die Busen von Sehnsucht überfliesst ,

    man sieht sich um und fragt

                           Wer  mit geniesst?...

 

*韻律学 Metrik 9. 「ファウスト」 第二部第三幕 より

 

*9246~ 72 :Helena :

*このヘレナとファウストの対話の場面は、9192以下、そして、9333-45のFaustの台詞や、9356-76のヘレナとファウストの対話の場面と同様、それまでのトリメーターに代わって、近代的なブランクフェルス、抑揚・短長格の5脚無韻詩で書かれている場面である。

 ・みずから 引き起こした 罪を この手で 罰することは できないわ 嗚呼 なんて 悲しいことなのかしら 男心を惑わせ その身も 仕事も 持ち物も 投げうたせて しまうのですから 嗚呼 なんという 残酷な わたしに つきまとう 宿命!

・・神や 半神や 英雄や 悪魔までが 略奪したり 誘惑したり 方々へ 引き回したり 奪い合ったり 鞘当てしたりして 東へ西へ 南へ北へと わたしは たえず 流離(さすら)ってきたわ そして その都度 わたしは 一度ならず 四度も 世の中を 掻き回し 禍(わざわい)を 重ねてきたのね ・・嗚呼 ですから どうか 善き人は わたしには 近寄らないで そして そんな 呪縛から はやく 解き放たれて頂戴・・

エロスの 魅惑に 囚われ 惑わされた人を もう これ以上 辱(はずかし)めては いけないわ  

   ***

Das Uebel ,das ich brachte , darf ich nicht

Bestrafen.  Wehe mir !... Welch streng Geschick

Verfolgt mich, uberall  der Manner Busen

So zu bethoren , dass sie weder sich

Noch sonst ein Wurdiges verschonten.....

     ****

*9333 -   45:  Faust;

それは そなたの 才気で 手に入れたものだが

はやく 持ち去るがいい お咎めは あるまいが

たいして 役立つものでも あるまい からな・・

 Entferne schnell die kuhn erworbne Last,

Zwar nicht getadelt, aber unbelohnt..

***

Goethe Samtliche Werke  18-1 ; Letzte Jahre 1827-1832

 Faust   ,Hanser Verlag    Munchner Ausgabe

Aus ; Kommentar   Metrik

*韻律学 Metrik :ゲーテ「ファウスト」 8. 第二部 第三幕の2.

 

2. 城の中庭 Innerer Burghof

9127-- 9573   より:

 * この場面の冒頭、9127- 91は、やはり、古代ギリシア悲劇の無韻の音韻形式で書かれている。すなわち、ヤンブス・抑揚・短長格のトリメーター・3音格詩である。そして、これは合唱隊、あるいは、合唱隊を指揮する女とヘレナの対話となっている箇所で、それはまた、場面全体も貫いているのである。

 zB.: 9127~ 34. 合唱を指揮する女:--

早呑み込みで お前たちは まったく 間抜け ときているのだから・・愚かな おなごだわね!...目先のこと にばかり 囚われる 幸や不幸 風の向きで どうにでもなる なんて 落ち着きのない 堪え性(こらえしょう)のない おなご なのかしら・・

目先のこと ばかりに 囚われて・・それに しょっちゅう 何かというと 喰ってかかる すると 寄ってたかって そんな仲間を 皆で 叩くのだわ やれ嬉しいの やれ悲しいのと 大声で 笑ったり 泣いたり そんなときだけ 不思議と 調子があうのね ・・もう お黙りなさい お妃さまが 気高き心で どうお決めになるか おとなしく 待つのです・・

        Vorschnell und thaericht ,aecht wahrhaftes Weibsgebild !

        Vom Augenblick abhaengig, Spiel der Witterung,

     Des Gluecks und Ungluecks, keins von beiden

                        wisst ihr je stets..  

 

*韻律学 Metrik 7. ゲーテ「ファウスト」 第2部 第3幕 より

 

*8909- 9126 行 ;--

・この箇所はフォルキアスの台詞、「薄曇りの朝の間から、人目を喜ばせ、輝きまばゆく、大空を支配する真昼の太陽よ!...・・」以下、第三幕のその1の最後までの場面であるが、ここではそれまでのヤンブスのトリメーター、すなち、短長・抑揚格の3音格詩が、トロケーウスの長短・揚抑格のテトゥラメーター、即ち、4 歩格・4詩格からなる詩行にとって代わっている。(因みに、テトラtetra-とは、vier即ち、4を意味するが、これも古代ギリシアの悲劇に倣ったものである。)

*フォルキアス :

お前たちも 見ただろうが アヤックスの盾には 絡(から)みつく蛇が 描かれていた テーベを攻めた 7人の勇士たちも ひとりひとり その盾に 意味深い 図柄をつけておった 夜空に 輝く月や 星も あった 女神もあった 英雄もあった

・9035 ~

梯子(はしご)や 剣や 松明(たいまつ)や ほかにも 威嚇する 攻め道具も 様様な 図柄になったのだ また ゲルマンの勇士たちも 先祖代々 そうした紋章を 美しく彩(いろど)り つけておった 獅子や鷲 鳥獣の 爪や嘴 水牛の角も 鳥の羽も 孔雀の尾も 薔薇もあった・・金銀 黒青 赤で縞模様の図柄もある そういうものが 広々とした 大広間に 列をなして 掛かっている こんな大広間は お前たちの 踊り場には ぴったしだな・・

*Ajax fuhrte ja geschlungne Schlang'  im Schilde, wie ihr salbst gesehn. 

 Die Sieben dort vor Theben trugen Bildnerey'n 

Ein jeder auf seinem Schilde ,reich bedeutungsvoll.

Da sah man Mond und Stern' am nachtigen Himmelsraum,

Auch Gottin, Held und Leiter ,Schwerter,Fackeln auch....... usw...

          ***  

Vgl.

*アヤックス Ajax: アキレスに次ぐ英雄。

     カサンドラを誘拐した。

・7人の勇士 : ティドイス、カバノイス他で、テーベ Theben (古代ギリシア ベオティーエンの首都)を攻めた。

   *****

*この韻律学・Metrikに関しては、ハンザー版ゲーテ全集、18-1.

Letzte Jahre 1827-1832.のなかのKommentar,Faust Ⅱ・3 Akt・S.922-S.1023.を参照されたい。

Aus;GOETHE SAMTLICHE WERKE 18-1

           Letzte Jahre 1827-1832  HANSER VERLAG 

                   Munchner Ausgabe   S.922-1023.

 

    

*韻律学 Metrik 6. 第二部 第三幕 「ヘレナ」 より

 

* 8810- 8825 行 :

 この箇所は、詩句問答Stichomytie 、隔行・対話形式で書かれているが、それはトロヤの娘たちによる合唱の女たちと、フォルキアスの間で交わされる華々しい口争いで、売り言葉に買い言葉の、互いに、侮蔑と誹謗の言葉を投げ合う、悪口合戦の態をなしている。

* 8810  ~

 ・合唱を指揮する女 :Chor-führerin :--- 

お美し方のそばでは 醜女(しこめ)は いっそう 醜く

 みえるものね

・フォルキアス Phorkyas :

 賢明なひとの そばでは わからずやは 一層 分らず屋に

 みえるわいな

・合唱の女 ⒈ Choretide 1. :--

 父は エレブス 母は 暗黒の闇と 名乗るがいいわ

・フォルキア

 お前は 恥知らずの スキラと 従姉妹同志だな

・合唱の女 2. 

 あんたの系図には さぞ いろんな 妖怪変化の名が 

  書いてあるのよね

・フォルキア

 お前は 地獄へいき 親戚でも 探すがいい

・合唱の女 3. 

 地獄にいる 女でも きっと あなたには 若すぎて

  手に負えない でしょうよ

・フォルキアス 

 そういう お前には 盲目の 爺さんの テイレジアスが

ちょうど お似合いだな 色目を 存分 使うがいいのだ

・ 合唱の女 4. 

 オリオンの 乳母が あなたの 玄孫(やしゃご) なのよね

・フォルキア

 お前は おそらく あのハルビエの子だな 汚い厠(かわや)で

  育てられたという・・

・合唱の女  5.

 何を お食べになれば そんなに 細身の お痩せになられた

 骨と 皮ばかりで いられるのかしら

・フォルキア

 お前の 吸いたがる 血なぞは 真っ平 ごめんと 

  いきたいものだ

・合唱の女 6.

 あなたは もはや 死骸も 同じなのに まだ 死骸に

 ありつきたいと いうのかしら

・フォルキア

 減らず口の お前の 口の中で 光っているのは

 ヴァンビールの 歯だな

・合唱を指揮する女 

 あなたの 正体を 暴(あば)けば その口は 

 塞(ふさ)がったまま 二度と 開けられないわよね

・フォルキア

 そういう おまえから 先に 名を名乗るものだ

 そうすれば 謎など 一目瞭然と いうものさ

        ***

*Wie häßlich neben Schönheit zeigt sich Häßlichkeit!..(8810)

    Wie unverständig neben Klugheit Unverstand !...(8818)

Das deine stopf' ich wenn ich sage wer du seyst..(8824)

    So nennt dich zuerst ,das Räthzel hebt sich auf..(8825)

Vgl.

*エレブス Erebus; 地下の最も深い暗黒の底の意がある。

*スキラ Scylla : 海の神グローカスGlaucusに愛されたニンフで、キルケCirceによって怪物の姿に変えられた。メッシーナ海峡に身を投じ、六つの頭を持ち、男をくう海の妖怪。

*ティレジアスTiresias: テーベの盲目の老預言者。

*オリオンOrion: 巨人で美しい漁師、狩人。

*ハルピエHarpyie : 少女の頭をした鳥の怪物。ハルピュイア。

*ヴァンピールVampyr : 男の肉を喰い、血を吸う吸血鬼。死霊。