HERR*SOMMER-夏目

現代ドイツ作家・詩人の紹介を主に・・・

* トルストイの「アンナ・カレーニナ」: 第一部 

「幸福な家庭は似通っているが、不幸な家庭はその様相はさまざまである。」 「アンナ・カレーニナ」のこの冒頭部は、よく知られた一節だが、この長編の第一部の11には、ハイネの詩の一節も挿入されている。: 抑えがたき この世の欲情に打ち勝てば どんなに救…

* 滑稽歌劇 :「赤と黒」 より

'おお 春四月 定かならぬ輝き 恋愛も これに似て 陽の輝きに あふるるも やがて次第に 雲はすべて奪い去り・・ ' シェイクスピア 第一部第十九章 導入部より *** もし革命が勃発したら、どうしてジュリアン・ソレルがロラン(フランス革命時代の政治家)の役割…

*「砂時計 」: ハイネ  

砂時計の砂が わずかづつ 落ちていく 妻よ 愛しいひとよ 死が わたしを引き裂いていく 妻よ 死がお前の腕から わたしを引き裂いていく 抵抗しても徒労に帰すだろう 死は 魂まで引き裂いていく わが魂は恐怖で死にたい思いだ 死は棲み慣れた家から魂を追い出…

*奇(くす)しき薔薇 :

バラの香りの愛(いと)ほしく 息吹の真っ赤に燃ゑしとき 愛しきバラの香よ ! そは聖母マリアの御慈悲により バラは奇しき薔薇となり・・ されど タンポポの 花咲き終わるや そが冠毛は風に舞ひ 四散して 遠く近くに着きしなり されど そが繰り返し繰り返すは …

* 「祝福」:デーメル 「女と世界」より

ごらん 空が青く 燕が飛ぶ魚のよう 濡れた白樺のうえを・・なのに きみは泣きたいの ?... きのう 剣に魂が貫かれていたね あの聖女のように でもきょう 腕を高らかに拡げる すべての聖徒に倣ひ・・ さあ マリアよ 耳を傾けよう 頭上から 天の歓呼が 聞こえて…

* 老子と「道徳経」承前 :ブレヒト  

肩越しに 老賢者は目を向けた 男は破れた衣を着 額には太い皺が走り みるからに 寂れた風袋だった なのに 見上げたもの-- 老賢者はつぶやくと 声高に云った : 求められたからには応じよう 老賢者は牛から降りると 七日間 少年に口述筆記をさせた その間 税関…

* 税関番と賢者・老子 : ブレヒト 

老賢者は70になり 衰えを感じると 安らぎを求めた 天なる下では仁慈も廃れ 邪悪に満ち 彼はこころを決めるや 入用なものを荷造りした 毎晩 紫煙を燻らす煙管や 愛読書の一巻は はずせないもののひとつであった 老賢者は国境の山中へ辿りつき振り返ると 廣い…

*棲家は小さくとも、安らぎは大きい : パルヴァ・ドームス、マグナム・クイエス

W.ベルゲングリューン短篇「古都奇譚」 冒頭部 より: さあ、みなさま、わたしの傍らにおかけください。ボトルはテーブルに用意できております。秋の陽はすでに沈み夕暮れて、外では鴉が鳴きさけび木枯らしも吹き荒(すさ)んでおります。 ところで、地下に眠る…

* ディオティーマよ!...何処に?・: ヘルダーリン「ヒューペリオン」より

1770年生まれのヘルダーリンはシラーとの交友もあったドイツの純粋な魂の詩人で、73年の全生涯の後半生、30数年を精神の闇に暮らした悲痛な詩人でもあった。彼の評価は高く、 彼の唯一完成した散文作品に手紙形式で書かれた「ヒューペリオン」がある。その中…

*木の葉が落ちる : シュトルム 

霧がたちこめ 木の葉が落ちる ワインを注(つ)げよ まろやかなワインを !... この憂き日を かがやかしい日にしたいのだ 外は荒れ狂っているが この世はすばらしい かくも 神々しきゆゑに!..... けれども ときおり こころは泪に濡れる だが それに構ふてゐては…

* 魂の祈り :ダンテ「神曲」 より

ダンテの「神曲」は周知のように、地獄篇・浄罪篇・天堂篇の三部構成からなっている。その浄罪篇の第十一歌では、ほぼ主の祈りに似て傲慢の罪を償うべく魂の祈りが綴られている。: ・・天にまします われらの父よ 願わくば聖名(みな)と 聖能(みちから)の尊ま…

* 美貌と才知 :「赤と黒」より

彼女はバッソンピエール時代のフランスにあった英雄的な感情にしか恋愛という名をあたえなかった。...... * 因みに、バッソンピエール(1579-1646)は、元帥にして外交官だが、ホフマンスタールの短編「バッソンピエール奇譚」(アバンチュール)でもよく知られ…

* ホラティウスの言葉 より

古代ローマの詩人ホラティウス・Horatius (B.C.65-B.C.8)の言葉に、こんなのがある。: nil mirari.....その意味は、決して、心を動かすことなかれ、というのだが、これはドイツ語では、Sei gefuhllos,となろうか。 因みに、これはゲーテの詩の一節に見える …

* 大都会 :リリエンクローン 

大都会の大海原; 目の前を 慌ただしくすぎゆく人 また人・・ 一瞥を投げ と もう過ぎ去りゆく どこからかピアノの響き 虚無の大海原; 目の前に 滴るしずく一滴 また一滴 あの柩は誰のもの 一瞥を投げ と もう過ぎ去りゆく どこからかピアノの響き 大都会の大…

* リンコイスのように : ラーベ抄 <了>

完成をみた作品で最後のものとなったのは、今から10年前に発表した「ハステンベック」*49 だった。:これは歴史小説で7年戦争を扱ったもので、その後、同じ年にもう一篇「アルタースハウゼン」*50を書きはじめたが、これは然し、未(いま)だに出来上がってはお…

*オランダの独立戦争と 「黒いガレー船」: ラーベ抄 ⑥

私はまた、ヴィーンやミュンヒェン、そしてシュトゥットガルトにも旅してまわったのだが、そこではヴォルフェンビュッテルとは違って、はるかに自由な世界を知ることが出来たものだったなかんずく、シュトゥットガルトは後に31歳の時に、わたしがヴォルフェ…

*"無心になれ!..."「フォーゲルザングの記録」 より W.ラーベ抄⓬

さて、わたしは30歳で婚約し結婚したのが31歳だったが、前にも述べたように、私には四人の娘がいた。因みに、長女が誕生したのが32歳のときだった、また、次女は私が37歳のときに、三女は私が41の時で、四女は 45歳の時の子だったが、中でも、四女のゲルトル…

*「饅頭男」が中傷の弁護をする : W.ラーベ抄 ⑪

私は25 歳で発表した処女作「雀横丁年代記」Der Chronik der Sperlings-Gasse以来、二十代には19篇、三十代 には17篇、四十代では16篇、五十代では10篇と発表してきたのだが、中でも、60歳の時に書き上げた「シュトップフクーヘン」(饅頭男)*44は、ある意味…

*時代の波と「古巣」など : W.ラーベ抄 ⑩

ところで、この「ホラッカー」を発表した年は三女のクララが72年に誕生した4年後のことで、それは 末娘のゲルトルートの生まれた年だった。そして私にはもうひとり次女・エリーザベトがいて、わたしが37歳の時のシュトゥットガルト時代に生まれた子だった。 …

* 戦後ドイツ作家 作品年表 2. :

1958年:「父の髭がまだ赤かったころ」シュヌレ 1959年: 「九時半の ビリアード」ベル 「ヤーコプについての推測」ヨーンゾン 「ブリキの太鼓」グラス「日本三文オペラ」開高健 1960年:「赤毛の女」アンデルシュ 「死の棘」島尾敏雄 1961年: 「揺れる家」ベン…

*ペシミスティックな時代には、ユーモア を : ラーベ抄 ⑨

さて、ブラウンシュヴァイクで過ごした40代は、時はちょうどビスマルク帝国の時代であった。彼の権力主義的政治には危機感を抱いていたものだった。というのも、その商業主義的政策や産業化の波は人の魂を打ち砕く以外なにものでもないように思えたからだ。…

*憎しみでなく、愛するために :「飢餓牧師」:ラーベ抄 ⑦

それはそうと、この62年から70年までのシュトゥットガルトで過ごした30代の8年間は、いま思い出しても、いちばん幸せな時期といってもよいものだった。というのも、それまでにない解放感を味わえたからで、それに加えて書くことにこころより打ち込めたからだ…

*30年戦争とナポレオン戦争を背景に :「モミの木のエルゼ」

処で、「飢餓牧師」と「アブ・テルファン」との間に8篇の短編を書き残している。その中では次の二篇がよく読まれてきたのだ。つまり、「樅の木のエルゼ」*28 と「勝利の蔭かげで」*29 の二作品だが、前者の作品では30年戦争を背景にして、また後者ではナポレ…

*「ライラックの花」とゲットー : W.ラーベ抄 ⑤

それから、28歳のとき南ドイツに旅をしたのだが、これは人生経験をどれほど豊かなものにしてくれたことか。この旅によって地方の文化や市民生活に肌で触れることが出来たし、人の歓びを目の当たりに感じることができたからだ。 またライプツィッヒやドレスデ…

*批評家ヘッベル氏から、お褒めの言葉: ラーベ抄 ④

これ(*「雀横丁年代記」)は承知のように、今の私のような老人が過去を振り返りつつ回想していくスタイルで書いたもので、ベルリーンの裏横丁の錯綜とした小市民の運命と日常を、時代の運命を重ねることによってユーモアとペーソスをまじえて書いていたのだ。…

*一条の星の光: W.ラーベ抄 ③

・さて、これまで書いてきた作品に、わたしの生涯のすべてを投入してすべてを犠牲にしてきたといえなくもない。それ故、一市民としての生活は一種の擬態のようなものであったろう。つまり老いたあのブロテウス(*変幻自在な姿と預言の力をもつ海の神)が好んだ…

*「雀横丁年代記」とW.ラーベ ➁  

ところで、わたしの初めての作品は54年の11月15日に書きはじめた「雀横丁年代記」*⑤なのだが、その文頭で、こう書き記した ものなのだ。: 「実に、嫌な時代である」*⑥と。 だが、そこに記したモットーは、わたしの書いてきた長短68篇あるすべての作品に貫い…

*「笑ひへの道」*① :W. ラーベ抄

身を屈(かが)めよ 山々 伸び上がれ 小さき谷よ 邪魔しないでおくれ 愛(いと)しい女(ひと)に逢ふのを* 「フォーゲルザングの記録」より わたしは31年生まれで、今年、78歳になった。すでに、数年前に筆を絶ち、今では、ほんの僅(わずか)な人に知られているに…

* 鐘の音 :デーメル「女と世界」より

そして 日暮れ 一息したく 鐘の音に 耳を澄ます あちこちの小屋から立ち上る煙 こずえは温かく包み込まれ さあ 閉じこもっていないで 外に出ておいで 蕾に蔽われた木の下では 木霊と そよぎが囁いている: 春だ さあ出ておいで 父と子が毬投げして遊ぶ草原に …

* ケンタウルス族の賢者 ヒロン: 「ファウスト」 第二部 第二幕より

・ヒロンは半人半馬の怪物であるケンタウルス族の賢者で、野蛮で粗暴な一族の中で例外的な存在である。 7331 ~: ファウストとヒロンの対話も脚韻を踏み書かれている。 Dialog im Sprech-Vers: ヒロン: 何じゃ、何ごとじゃ ファウスト: 馬をお止めください …