HERR*SOMMER-夏目

現代ドイツ作家・詩人の紹介を主に・・・

*「プラハへの旅路のモーツァルト」:  

1834年30歳の時、牧師になった詩人メーリケ。 彼は母を呼び寄せ9年間を暮らす。が、1841年に母が亡くなると病気がちに、40代で年金生活者となった。 その後、46歳の時、シュトゥットガルトの女子高教師なると、12歳年下の妹の友人と結婚、二人の娘を授かった…

*プロメテウスの寓話: ホフマン短篇 より

プロメテウスの寓話 というものがある。 創造主をもくろんで天の火を盗み、命あるものを生み出そうとした あのプロメテウスの話で、驕慢にも神を気どったプロメテウスは どうなったか。-- 永遠の劫罰を受けたのである。 つまり、神に成りあがらんとした野望…

* ディオゲネスに関する逸話 : クライスト奇譚集 より

古代ギリシアの哲学者ディオゲネスは、ある時、 「死後に埋葬されたいところは、どんなところでしょう・・」と訊かれると、 「野原の真ん中でよかろう」 「えっ!..なんですって?..」 「鳥や野獣の餌食になってしまうではありませんか・・」 「ならば、傍らに…

*その日を掴め: ソール・ベローより

「・・友人が綿花について情報を流してくれたよ。勿論、そいつをごっそり買ったさ。電話での買い付けでね。すると 綿花の積み荷が、まだ海にあるうちに三倍に高騰したな。世界の綿花市場がてんやわんやだ。すると この船荷の主は誰かとなった。無論、わたし…

*メルヴィル「白鯨」より

・・鯨の尾びれには測り知れない力が、すへて集結している。この力は尾鰭の優美さを聊かも損なわず、思わず見とれてしまうほど。そのように、真の力は美や調和を損なわない。 全ての美しさには、その魅惑に力と云うものが大きく関与している。 例えば、ヘラ…

*ルクルスと ルクレティウス : ブレヒトより Ⅱ-3 (*20 )

老いた前将軍ルクルス。: 彼は、嘗て、全盛期にアジアに出征した。すると、ポンペイウスはこの時とばかり、陰謀を巡らし彼を排斥した。 ルクルスが真のアジア征服者だと崇められていることを承知の上で。 ・ 紀元前63年初期。: ローマは政情が不安定で、ポン…

*第二の青春 マリアンネ:「西東詩集」より

ゲーテ晩年の「西東詩集」には新たな恋愛対象として出逢ったマリアンネ・フォン・ヴィレマーが関わっている。 このマリアンネは ズライカとして「西東詩集」に重要な形姿として現われてくる。つまり、最後の恋愛体験としてのマリアンネ体験によって、ゲーテ…

*風の声: リルケ「ドゥイノの悲歌」より

憧れと愛に生きた女を 歌うがいい 英雄は 存在を貫き 没落も口実となす だが 精魂尽きれば 塵に帰る・・ 地から轟き渡る 巨大な声 聴け それは神の声!!...だが 堪ええぬなら 風の声に 耳を傾けるがいい 若い死者に代わって その嘆きの声を! )) ) Rilke: Duin…

* 「ナポレオン軍遠征に関する逸話」: クライスト奇譚集 より

「1809年、皇帝軍遠征に付き従いて」と題された書物のなかで、ナポレオン皇帝に関して、次のような逸話が記されている。--: それによると、作者はナポレオンの力量に憐憫の念を感じつつ、こんな奇妙な一例を伝えているのである。--: 周知のごとく、アスペル…

*オデュッセウス: ブレヒトより: Ⅰ-1 (*16)

ギリシアはイタケの王: 策謀家オデュッセウス。 彼は、世の男を魅惑した美声のズィレーネンの島が見えてくると船のマストに、みずからを縛りつけさせた。櫂(かい)を漕(こ)ぐ者らには耳に蝋(ろう)で栓をさせた。 美声に心が乱れぬようにとの配慮から。 島の近…

* ディオティーマよ!...何処?・: ヘルダーリン「ヒューペリオン」より

1770年生まれのヘルダーリンはシラーと交友あったドイツの純粋な魂の詩人。が、彼は73年の全生涯の後半生、30数年を精神の闇に暮らした詩人でもあった。 彼の評価は高い。唯一完成した散文作品に手紙形式で書かれた「ヒューペリオン」がある。: 「ディオティ…

*リンコイスのように : ラーベ抄より -13.

ラーベが 最後に発表した作品「ハステンベック」は歴史小説で、これは7年戦争を扱ったもの。彼はその後、もう一篇「アルタースハウゼン」を書きはじめるが、これは中途のまま老齢の故もあり筆を絶つ。 とはいえ、擱筆してから10年の歳月の間に、いろいろな名…

*「フォーゲルザングの記録」 より : ⓬ (* - 10 )

ラーベは30歳で婚約し、結婚したのが31歳、四人の娘。長女が誕生したのが32歳のとき、また、次女は37歳のとき、三女は41の時、そして四女は 45歳の時の子。が、末娘ゲルトルートには悲しい思い出があった。というのも、16歳の若さで病死していたからだ。この…

*「飢餓牧師」: Der Hunger-Pastor -5.

62年から70年までシュトゥットガルトで30代の8年間を過ごしたラーベは、それまでにない解放感を抱き、書くことに 打ち込む。この時期は、また、友人たちと親しく付き合うことのできた時期で、 後に所謂、長編三部作、「飢餓牧師」「アブ・テルファン」「死体…

*40代ラーベの作品群 :⑨ (*- 14)「ホラッカー」など

40代をブラウンシュヴァイクで過ごしたラーベ。時はビスマルク帝国の時代。彼は権力主義的政治には危機感を抱く。というのも、商業主義的政策や産業化の波は人の魂を打ち砕く以外なにものでもないからである。そんな時代であればこそ書くものはイロニー的色…

*ヘッベルとラーベ: -8 .

処女作「雀横丁年代記」は 若きラーベが老人を語り部にして 過去を振り返りつつ回想していくスタイルで書いた。:そこでは ベルリーンのうら寂れた裏横丁を舞台に 錯綜とした小市民の運命と日常を、時代の運命を重ねることによってユーモアとペーソスをまじえ…

*「黒いガレー船」: ⑥ (* -7 )

.ラーベは、ヴィーンやミュンヒェン、シュトゥットガルトにも旅してまわる。そして、はるかに自由な世界を知る。なかでも、シュトゥットガルトは31歳の時に名士の娘ベルタと結婚した土地で、以後8年間を暮らした。 その為、終生、忘れ得ぬ地となり、この南の…

*「ライラックの花」とゲットー : -4.

ラーベは28歳のとき南ドイツに旅をし、地方の文化や市民生活に触れ、人の歓びを目の当たりにした。 ライプツィッヒやドレスデンでは、何人かの作家にも接し、その一人は当時43歳のフライターク。彼の代表作は「借りと貸し」Soll und Haben。もう1人は48歳の…

*「雀横丁年代記」➁ (*- 6) :W.ラーベ作 

19世紀ドイツの作家W.ラーベの処女作「雀横丁年代記」⑤には、文頭でこう書き記されている。: 「実に、嫌な時代である」⑥と。 このモットーは、ラーベの長短68篇あるすべての作品に貫かれているといってよい。: 25歳のこの処女作以来、半世紀近くにわたって、…

*ジョン・バース「酔いどれ草の仲買人」より

詩の末尾に 桂冠詩人 エベニーザーと書いた二行連句の詩篇は、船を追う海豚の群れを眺めては、ミルトンの著作を参考にしながら 眼にするメリーランドのおもかげを描いたものである。: トロイを撃ち破り、帰路のユリシーズ: 纏(まと)いし衣は破れ 西の方へと…

* ブレヒト散文選より: Nr.14-

他の民族と平和に暮らしている人々が、それぞれ階級闘争をしていることがある。 しかし、他の民族と一旦、戦争になると、階級間の闘争は休戦せざるを得ない。 と同時に、そんな場合でも、階級間の闘争が俄かに、激化することもあり、そんな状態にでもなれば…

*ブレヒト散文選より; 15-: レクチャー

詩のレクチャーが終わると、コイナー氏は云った。:: ローマでは公職の候補者は討論会に出席する際、ポケットのついたローブは着ることが禁じられていました。 そのように、詩人もまた、詩を作る際には心しておかなければいけない。つまり無作法であってはな…

* 「ファンタズス」千年もの間 :ホルツより

千年ものあいだ 寺院の廃墟のもとで わたしは 埋もれていた: 夕陽を受け 羊は草を 喰(は)み 花咲く草原で 羊飼いが 角笛を 吹き鳴らし そんな年月の巡るなか 千年ものあいだ 土の下に 横たわっていたのだ: だが この日 いま蘇り この眼で 緑の水を見つめる …

*希望と蘇生のセゾン: ゲオルゲ詩選

苑みな蒼き冷湿の 身を切るばかり 風が吹き 葉は ことごとく 払われて 芥とともに 朽ち果てる 初雪 舞いて 煌めく結晶 落ちゆくままに 融け始め 枯れた枝から したたり 雪片の 沈みしとき 無常 覚ゆる 望みも果て・・ けれども 春の盛りに 若葉 芽吹き 樹木…

*: ソール・ベローより

「・・友人が綿花について 秘密の情報を流してくれた。勿論、そいつをごっそり買った。電話での買い付けで。すると 綿花の積み荷が、まだ海にあるうちに三倍に高騰し世界の綿花市場が てんやわんやになる。この船荷の荷主は誰かと云うことになった。無論、わ…

*漱石の講演:鴎外「青年」より  

案内されて漱石が現れた。どんな人かと純一は見つめる。 漱石の背丈は中ぐらい、顔にはカイザー髭。 漱石は鎮まるのを暫く待って 口を開いた。 「イプセンの話をということでありました。が、考えたことはありません。 ですから、知識は諸君とおなじ」 声を…

*囚われの男:

いとこのアルバーンは、今、どうしているのだろう。噂を聞かなくなってから久しい。それほど親しく付き合ってきたわけでもない。 彼の一族は大家系で、関心を寄せたことがあった。 それはアルバーンが特有の主張、「嘘じゃない。悪いのは、俺ひとりなのだ!」…

* 鐘の音 :デーメルより

そして 日暮れに 鐘の音 : 見回せば あちこちの小屋から 煙が 立ち上り こずえは 温かく包まれて さあ 出ておいで 風が そよぎ 囁いているよ: 春だ 出ておいで 子らが 毬投げして遊んでいるよ !... 白樺や楓の若葉も 息づき 戯れている!... 草原の爽やかさを…

* 星が輝く夜は・・:T. マンより

おっしゃる通り、と男は云った。 憂鬱に関しては その通りです。いつだって星が輝く夜は、また格別でして。 この男は詩を書いているな、とクレーゲルは思った。 夜も更け 風が激しい。 クレーゲルはベッドに体を伸ばした。 眠れない。するとまた、甲板に行っ…

*囚われの男: 承前 

夫人のマーティルデさんは、庭先で洗濯物を干し、訊ねてきた。 その間、青い顔のアルバーンは、話に 耳を凝らし聞いていた。 本当に、いいことなど ありませんでしたわ、夫人は云った。すると 悪いのは、この俺のせいだ。Ich bin schuld daruber.... アルバ…