HERR*SOMMER-夏目

現代ドイツ作家・詩人の紹介を主に・・・

* プルースト より ⑵

17世紀オランダの画家フェルメールについてオデットはスワンに訊ねた。 この画家は女性のために苦しんだことがあるのかしら、女性からインスピレーションを与えられたことがあって?... スワンが、実は、わかっていないというと、彼女はフェルメールに興味を…

*プルーストより

ピアノの鍵盤では愛情・情熱・勇気・平静といったキーが他のキーと異なって、作曲家の手にかかると目覚めさせてくれる。 そのように、作曲家ヴァンの楽節には、充実した内実が感ぜられた。 スワンは幸福を思い、いつしか、「クレーヴの奥方」が憶い出してい…

*ヨーンゾンの「推測」:

1934年、現ポーランド領に生まれたヨーンゾンのデヴュー作「ヤーコプについての推測」はこんな内容である。; 1956年11月の或る日、霧の中で28歳の鉄道保安員ヤーコプはドレスデン駅のプラットフォームで機関車に轢かれた。すると、推測はこんなふうであった…

*ジョン・バース「酔いどれ草の仲買人」より

詩の末尾に桂冠詩人エベニーザーと書き添えた二行連句の詩篇は、航跡に船を追う海豚の群れを眺めては、ミルトンの著作を参考にしながら眼にするメリーランドのおもかげを描いたものである。: トロイアを撃ち破り、帰路のユリシーズ: 纏(まと)いし衣は破れ 西…

*比喩としての銀杏の葉:「西東詩集」より

83年という長い星霜を精力的に活動しつづけたゲーテ。 そのゲーテの晩年(65歳)の詩に、銀杏をうたった一篇がある。 約250篇からなる「西東詩集」West-ostlicher Divan のなかの一篇で、こんな詩である。 東方の国から はるばる 移植された銀杏 その銀杏の葉…

*:ホフマンスタールより  

侯爵夫人: なぜ腹が立つのかしら、世の常なのに、 わたしにも 娘時代があった、でも 修道院から結婚生活に すぐ、 でも どうして、昔は可愛かった なのに いつの間にか もうお婆さん、・・ どうして 神さま どうして わたしは ずっと 変わらないのに たとえ …

* デュレンマット: より

「貴婦人、故郷に帰る」はこんな内容である。: 主人公のクララは若いころ、イルから誘惑され貞操を弄ばれ娼婦と誹謗を受ける。が、世界で最も富んだ婦人となった彼女は62歳になると衰えてきたものの、めかしこみ故郷を訪れる。 この折り、市の産業と商業を代…

* ブリンクマン : より

作者自身の境遇を描く長編。:「もはや誰も知らない」:Keiner weiss mehr. プソイド的、とはつまり、似て非なる<彼>の観点から、教育学専攻のケルン学生の緊張が描かれた: この学生は学友の女性(ふたりの間には精神障害の子供がいる)、並びに、友人R.と一緒に…

*ホラティウスの言葉とゲーテ:  より

ホラティウス Horatius (B.C.65-B.C.8)は古代ローマの詩人だが、彼の言葉に、こんなのがある。: nil mirari.: .意味は、決して、心を動かすことなかれ。 これはドイツ語では、Sei gefuhllos,となろうか。 これはゲーテの詩の一節に見える 言葉だが、後にはこ…

*その日を掴め: ソール・ベロー より

「・・友人が綿花について秘密の情報を流してくれたよ。勿論、そいつをごっそり買った。電話での買い付けで。 すると綿花の積み荷が、まだ海にあるうちに三倍に高騰し 世界の綿花市場がてんやわんやさ。この船荷の荷主は誰かと云うことになった。無論、わた…

*ダンテ「神曲」:天国篇 第五歌 より

儚(はかな)きは 誓ひしことか; 戯れに立てた誓いには 信を貫かん 誓いに忠義をたて 非道せしよりは 《われ過(あやま)てり!..〉と 言ふがよく・・ 同じ愚かしさは トロイア遠征のギリシア総大将アガメムノンにも認められる かれは女神アルテミスの苑にて 鹿を…

*ダンテ「神曲」:天国篇 第11歌 より

おお 人間! その純(おぞ)ましさよ: ある者は法学を ある者は医術を追いもとめ ある者は司祭にならんと また ある者は詐術に手を伸ばし はたまた 快楽に酔い 懶惰(らんだ)を貪( むさぼ)る輩もいる・・ わたしは だが それらの塵労からは解かれ ベアトリーチェ…

* ケンタウルス族の賢者 ヒロン:

・ヒロンは半人半馬のケンタウルス族の賢者。 粗暴な一族の中で例外的な存在。 7331 ~: ファウストとヒロンの対話も脚韻を踏む。 Dialog im Sprech-Vers: ヒロン: 何ごとじゃ ファウスト: 馬をお止めください ヒロン: いや、とめぬ ファウスト: では 一緒に…

*噴水:ボードレール「惡の華」より

噴き上げる 水は千々に 花と咲き 月の光に 照らされて 飛沫となりて 落ちゆかん・・ おお 夜の闇に 美しきひとよ この身を傾けん きみが胸 池のほとりに すすり泣く 円かな月よ 噴水よ 夜よ 樹々よ きみが憂わしさに 濁りなく 愛を映し出す 鏡なれ C.P.Baude…

*風の声: 「ドゥイノの悲歌」より

憧れと愛に生きた女を 歌うがいい 英雄は 存在を貫き 没落も口実となす だが 精魂尽きれば 塵に帰り 巨大な声が 地から轟き渡る 聴け それは神の声!!...だが 堪ええぬなら 風の声を 聴くがいい 若い死者に代わって 嘆きの声を )) ) Rilke: Duineser Elegien …

*決 闘 :「オネーギン」より

オネーギンとの決闘に倒れた青年詩人・レンスキー: オリガは 悲しみながらも、長くは 泪にくれて いなかった。 若き許嫁は 哀しみにひたってばかり いられなかった。彼女は他の男に 早くも心が惹かれていた。甘い恋のささやきで 苦しみを紛らわしたかったか…

*K・ハムスン: ノルウェーのノーベル賞作家

1859年生まれのノルウェーの作家 K. ハムスン。: 彼は若き頃は貧困と苦労をし、アメリカにも渡りいろいろな職業にも就く。が、30歳にして小説がベストセラーになると一躍、脚光を浴びるや、次々と長編を出し、1917年には「土の恵み」で田舎生活を賛美した小…

* ヘルダーリン「ヒューペリオン」より

1770年生まれのドイツの詩人ヘルダーリン。: 彼はシラーとの交友もあり、73年の生涯を送ったが、その後半生の30数年は精神の闇に閉ざされた暮らしだった。が、彼の評価は高い。 唯一完成した散文作品には、手紙形式で書かれた「ヒューペリオン」がある。その…

*プーシキン「オネーギン」より

レンスキーはゲッティンゲン精神を身につけ、カントを崇拝する若き詩人であった。霧深いドイツから学問的成果と肩まで垂れる巻き毛を携え帰国したばかりであった。 彼は社交界にはまだ染まっていなく、友人や女の眼差しに慰められ、恋にも初心で希望に胸躍ら…

*ヘッセの手紙 : ラーベ抄 より -15.

31年生まれで78歳になっていたW.ラーベは数年前に筆を絶ち、僅(わずか)な人に知られているにすぎなくなっていた。そのころ、ヘッセがブラウンシュヴァイクに講演に来た折り訪ねてくる。ヘッセは20代後半に発表した「青春 彷徨」(ペーター・カーメンツィント)…

*::スタンダール より

'おお 春! 四月は 定かならぬ輝きに満ち!.. 恋愛も 陽の輝きに あふるる が やがて 雲は すべてを覆い隠しおり シェイクスピア 「赤と黒」第一部 第十九章 導入部より *

*夢: :ゲオルゲ より

彼女の夢を見ていた: 花咲き樹に囲まれた館で 光を浴び、彼女は子と 和んでいた 花輪を身にまとい 子は 微かに揺れると 黄色い菊が 額に靡いた やがて 池に向かい 子は大理石の階段に来ると よろめき 鷲とともに 空高く舞い上がり 立ち昇る霧とともに 光とな…

* 「ボヴァリー夫人」より:

最初、彼女は修道女との交際を喜び、よく礼拝堂へ連れていかれ、教理問答は理解していて、司祭の質問によく答えていた。 彼女は祭壇の薫香や聖水盤の冷やかさ、蝋燭の光の神秘さに心地よく微睡み、また苦行のため一日中、何も口にしないこともあった。告解に…

*ウクライナの女 リーディア: 

「ねえ、ヒラメのこと覚えていらして?..」と訊ねてみたが、いいえと ロベルタは云うのだった。 「忘れるはずないわ。大きなヒラメ焼いたでしょう?..」こう云ったにも拘らず、ロベルタは覚えていないのと繰り返す。けれども、それは終戦直前のころ手に入った…

*「モミの木のエルゼ」: 1-. W.ラーベ作

ラーベは長編「飢餓牧師」と「アブ・テルファン」との間に 8篇の短編を書いた。比較的よく読まれてきたのは、「樅の木のエルゼ」 と「勝利の蔭(かげ)で」。 前者は 17世紀に起こったカトリックとプロテスタントの抗争である30年戦争が背景。 後者は ナポレオ…

*「雀横丁年代記」:ラーベより -3.

「雀横丁年代記」は、一人の老人が 過去を振り返り 回想していくスタイルで書かれている。: そこはベルリーンの裏横丁。そこでの小市民の運命と日常が、時代の運命と重ねられ ユーモアとペーソスをまじえて書かれている。: 〈 闇が どれほど 深かろうと、一…

*オタの谷 :モーパッサン「女の一生」より

創造は すべての胚芽を内に含み 花や果実は樹の枝につき生育する 。 思想と生命も また同じ: 創造の懐に抱かれ育っていく 。 * 彼にとって生殖とは、普遍的な自然の大法則に他ならなく、神聖で犯さざるべき崇高な行為なのである。これによって《存在》の不変…

* .デュレンマットの戯曲:「物理学者」

1921年、スイス生まれのデュレンマットのデヴュー作は47年に上梓した戯曲「聖書に曰く」であるが、最初に結婚した女優の死後、52年には再婚した経歴を持っている。 世界的に成功を治めた作品は56年に上梓した悲喜劇「貴婦人、故郷に帰る」だが、もう一つの成…

*「悲の器」:高橋和巳より

「わたしは文学者ではない。事実性と論理性のほかに文章を不必要に飾ることに対して好意的ではない。事実の証拠と構成する人的動機にしか興味を覚えぬのだ。長年にわたり、そのように鍛えたのであり、その性向に対して不満があるはずもない。いま綴り始めた…

*ヨーンゾンの「推測」:

1934年、現ポーランド領に生まれたヨーンゾンのデヴュー作となった「ヤーコプについての推測」はこんな内容である。; 1956年11月の或る日、霧の中で28歳の鉄道保安員ヤーコプはドレスデン駅のプラットフォームで機関車に轢かれた。すると、推測はこんなふう…