HERR*SOMMER-夏目

現代ドイツ作家・詩人の紹介を主に・・・

* カサノヴァの寂寥

 

鴎外の翻訳「みれん」Sterben などでも知られ、わが国でも一時、よく読まれた19世紀末のオーストリアはウイーンの作家にシュニッツラーがいるが、彼の作品に「カサノヴァの帰郷」Casnovas Heimfahrt というのがある。 

 

カサノヴァは周知のごとく、ドン・ファンと並び、色好みの代名詞にもなっているのだが、この73歳の生涯を終えた彼も、晩年になると、さすが、老いの寂寥と惨めさに堪えねばならなかったのも必定ではあったことを記憶していてもよいであろう。   

 ところで、カサノヴァは1793年、知人に宛ててこんなことを書き記しているのである

 「なにしろ50歳以後のことは、もはや悲しいことしか話せられませんからね。それは私を悲しませるばかりでして。」

  さて、エロスの戯れにたけた作家のシュニッツラーが小説「カサノヴァの帰郷」を書いたとき。彼はカサノヴァの伝記の細部に拘泥することなく、自由に構想し、主人公を53歳とし、その年の或る些細な事件を語っているのだが、さて、その事件とは。  

             

まだ夜明けの静けさに浸されている庭。その時、かすかな物音がする。館の娘の部屋の窓が開いたのだ。すると、窓から跳びだして、庭の外へ走り出た男がいた。館の近くに棲む若い軍人である。娘は聖女のような顔をしてひそかに男を引き入れていたのだ

これはしかし、なにを隠そう、カサノヴァが手をつけた世間知らずの娘を、後腐れなく、別の世間知らずの男に、うまうまと当てがいおさらばする、といった軽佻浮薄な話なのだが、どこかで聞いたことがあると思ったら、あのモーツァルトの「フィガロの結婚」にも通じているものだったのである。

        A.Schnitzler : Casanvas Heimfahrt...