HERR*SOMMER-夏目

現代ドイツ作家・詩人の紹介を主に・・・

*後朝(こうちょう)の別れ 「枕草子」より

 

 七月はとても暑いので、あちこち開け放して夜を明かしている。満月の日などは、真夜中に目が覚め外を眺めると、それは素敵なのだ。闇夜もまた、いいが、有明の月も言ふに及ばず、実にいいのだ。

 ところで、そんな有明のころ、人の気配がして衣の下から見た女がいた。すると、男はほほえみながら鴨居に寄りかかり坐っている。憚るような方ではないが、「憎らしきもの、こんなところを見られてしまっては・・」と女は思ふ。すると、男は「ずいぶん名残惜しげな朝寝坊のことですね・」と簾(すだれ)ごと身を廂(ひさし)の間に入りながら云ふ。

「いいえ、早朝一番に、置いてきぼりにしていった人を憎たらしく思っていたものですから・・」などと女はその場凌(しの)ぎにいう。やがて、明るくなってくると、人の声なども聞こえ、陽も指してきて霧も晴れてきているというのに、"後朝の文"は忘れたかのように届かず、女はやきもきするばかり。が、やがて出て行った男から、手折った枝につけて文が使者からくるが、使者は差し出すことをなぜか、憚っている。

 "ああ、薫香焚き染めたる香気漂わす文よ・・"と思えども、この男は、別の女にも同じようなことをしているに違ひないのだ、と思ふと、可笑しく思えたことである。

清少納言は想像を逞しくして、書いているのである。  

 *かくも当時の貴族社会は、男女の交際が開放的であったことは間違いないのであろう                         第33段 より