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HERR*SOMMER-夏目

現代ドイツ作家・詩人の紹介を主に・・・

*「ガブリーニと薔薇椋鳥」 ベルゲングリューン作 より

 

 

或る日のこと、小さな僻村に棲むガブリーニが蹄(ひづめ)の音を耳にした。と、眼の前に一人の騎兵が立っている。かれは豪華な甲冑(かっちゅう)をつけているが、武器は携えてはいない。その代わりに、オリーブの枝が巻かれている銀のステッキを持っていたが、この騎兵は恭(うやうや)しくいった。

「これはガブリーニ殿ですかな?...」

「そうぢゃが・・みなに、そう云われているのでのう・・」と、その時、間髪を入れずにムクドリのベッピーノが声を発した。「おはようございます。もう一杯、いかが!....」すると、この騎兵は白い歯をみせて少し笑ったが、馬から降りるや、仰々しくガブリーニに一通の書状を手渡した。

「わしは、じゃが、字は苦手でのう・・」ガブリーニが云うと、騎兵はそれを声高に読み上げた。と、そこには文面が格調高く綴(つづ)られていた最後に、こう記されていた。--:"ローマのカピトル宮殿に来られたし。" そして、これにつづいて、次のような署名も認(したため)られていた。"御神の御加護のもとに、ローマ共和国を救済せし高貴なる、イタリアと全世界の同胞に衷心より味方となり、御聖霊の恩寵により、自由と平和と正義をもたらせし高貴なる護民官、並びに、貧者と寡婦と孤児の保護者たるニコラス、並びに、その妻。"-

ガブリーニには然し、ことの内容が、よく呑みこめなかった。すると、使いの騎兵は再び読み上げると、こう云った。「いいですかな、この御方は、つまり、そなたの甥のコーラ閣下さまなのです。実に、オイのコーラ閣下なのですぞ。」

 だが、この書状によれば、縁者たる者はすべからく、貧困と隠遁の生活は今後、いっさい罷(まか)りならず、それ故、ガブリーニも即刻、そして以後は、永久に田畑を手放し、ローマに赴(おもむ)かねばならない、というのであった。 次第に事情が呑み込めてくると、これは本当に、あのどえらい饒舌家(じょうぜつか)だったオイのコーラに違いない、と思い当たった。

「ほらのう、思ってたとおりぢぁったわ・・・あの男が平々凡々とした暮らしに満足できる筈もないからのう・」…

ガブリーニは、因みに、妻に先立たれ、やもめ暮らしをしていたが、固より、不都合はなかった。             拙訳 より

*Werner Bergengruen 1892-1964 :   Das Vogelschalchen