HERR*SOMMER-夏目

現代ドイツ作家・詩人の紹介を主に・・・

*海辺の夜のレジェンド  ハイネの詩 より

 

星なき夜の 冷たさに 海は 猛(たけ)り

 北風は 海に 身を拡げ 横たわった

  そして 秘かに 喘(あえ)ぎつつ  音を立て

 風は 水にむかひ 莫迦(ばか)噺(ばなし)を 

     喋りまくった

 巨人たちの 索漠(さくばく)とした 物語や

   ノルウェーの 古伝説を-----

 そして 噺の切れ目に 高笑ひ 吠えたけり

  エッダの呪文も 語った・・ 時折りは 難解で

    妖怪に満ちた ルーネン文字の 格言を まじえ

 語ってゐると 白い 波がしらは 舞ひあがり

   昂然と 歓呼した

  すると その時 ひとりの 見知らぬ男が 

  汀(なぎさ)に沿って 潮に濡(ぬ)れた 

    砂を 踏みしめていった

男のこころは 荒く 浪や 風より 荒く 

  彼の踏む 足下では 貝殻が はじけ 

   火花が 飛び散った 

男は 灰色のマントに 身を堅く 包み込み

  吹き荒れる 闇の中を 敢然と 突き進んだ

 ゆく手には 漁夫の 寂しい 一軒家があり

  小さな灯が 招くように 光っていた

 

  父も兄も 海に出て 小屋で 留守居をしているのは

   娘がひとり。。炉のそばで 娘はすわり

      煮ゑ立つ湯の 秘かな つぶやきに 

聞き耳を たててゐた・・火に 柴をくべ ぱちぱちと

 火が 燃ゑ立つと 娘の顔や 白い肩肌は 

  愛らしく 照らし出されていた

すると そのとき 突如 扉が開き

 黒装束に 身をまとった 見知らぬ男が

  入り込んできた・・ 娘は 刹那 驚いたが

 男の眼は 愛を 愛(め)でる かのように

  娘を やさしく 見つめてゐた・・けれども 娘は

白百合のように ふるえつつ 佇立しているばかり

 すると 男は 外套を 床に投げ出し 

   高笑ひして 云ったのだ

 分かっただろう こうして 約束 違(たが)わず

   おれが ここに 来たことを

 こうして あの昔懐かしき 時代が 舞ひ戻ってくると

  神々が 娘のもとに 降りてきて 

人間の娘を 愛(め)でるように 男は ラム酒入りの

 茶を一杯 飲み干し 冷えた身体を あたためるや

   娘を 強く つよく 抱きしめた

     *   Die Nacht am Strande ,  H.Heine