HERR*SOMMER-夏目

現代ドイツ作家・詩人の紹介を主に・・・

*棲家は小さくとも、安らぎは大きい パルヴァ・ドームス、マグナム・クイエス

 

*W.ベルゲングリューン短篇「古都奇譚」 より: 

 さあ、みなさま、わたしの傍らにおかけください。ボトルはテーブルに用意できております。秋の陽はすでに沈み夕暮れて、外では鴉がカァー・カァーと鳴きさけび、木枯らしもピューピューと吹き荒(すさ)んでおります。ところで、地下に眠る哀しげな魂の呻き声は、お耳にはいりは致しませぬか。わたしはこれから、いくつかお話ししたいと存じ上げているところで御座います。北は高地の或る古都の物語を。また、東は海沿いのこれも、或る古都の物語を。とは申せ、これからお話し致しますのは、それら古都の物語ではございませぬ。実は、そこに棲んでおりました死者の物語なのでございます。    **

ところで、古代の都市と申しますのは、すべからくが遺跡の埋蔵地なので御座います。ですから、そこに眠る遥かかなたの埋蔵物は、矢のような速さで高みへと飛翔していく炯眼(けいがん)な若者の前にあっては、ヴェールの取り除かれるのを今か今かと首を長くして待ち望んでいることでありましょう。そうして、地下に眠る死者は、それは数え切れぬほどに違い御座いませぬ。古代の都市も嘗(かつ)ては、棲みうる限りの人々で賑(にぎ)わっていたに違いないのです。ですが、それにしましても、嘗てその地に棲みついておりました人々に比べ、今、現在、同じ地に棲んでいます人々とは、一体、どんな人々なのでありましょう。いま、それぞれがそれぞれの家に暮らし、また、街に出て通りを歩いております人の数は、さして多いとは申せませぬ。寧(むし)ろ、すでに灰色の教会内や、円天井の地下室で眠りについております人々の数こそ、それは多いと申せるので御座います。そして、それらはあの鑿(のみ)で彫られた重い墓石の下や、墓地に繁る芝生の下や、また、教会の広場の舗道の下などに眠っているので御座います。 嗚呼、生命あるものは、今まさに、現在の、この僅(わず)かな一瞬を生きているにすぎませぬ。それに比べ、死者の持ちます時間は、それははるかに悠久(ゆうきゅう)であり、不変であり、相も変らぬ永続的なものなので御座います。すなわち、死者にとりましては、今現在は、昨日や明日となんら変わるところなく、一年の区切りとて、まるで無縁なので御座います。彼らはつまり、大いなる遥かな永遠の中にこそ棲みついているので御座います。  **

 さて、これから語ろうと存じます町には、ひとつの奇妙な言ひ伝へがあるので御座います。この地に遙か以前から棲みついておりました民は、古来より、古都リーヴァールの生い立ちやドームベルゲについてのそれと同様に、大女リンダに関しましても伝え残しているのでございます。つまり、この巨人女・リンダは、恋人のため、墓石としてそれは大きな石灰岩石を築いたというのでございます。それ故、墓石と申しますものは、この町の始まりからあったというので御座います。 この半ば朽ち果て、一面、苔で覆(おお)われた暗いリーヴァールの墓石にはこんな文字が辛うじて読み取れるので御座います。

 パルヴァ・ドームス、マグナ・クイエス  

        棲家は小さくとも、安らぎは大きい。 

このように、葬られています死者は、このリーヴァールに御座います教会や墓地には、それは多いので御座います。とは申せ、リーヴァールはもとより、暗く沈んだ町ではございませぬ。そして、これから語ります物語も固より、沈んだ暗い話ではないのでございます。と申しますのも、それぞれの死にも、必ずや<笑いがあるからなので御座います。                    ・拙訳 より

  Aus: Der Tod von Reval    ,     W. Bergegruen

            Kuriose Geschichten aus einer alten Stadt    dtv. 

                      Vlg.. 序章 死者の町 より