HERR*SOMMER-夏目

現代ドイツ作家・詩人の紹介を主に・・・

*「ライラックの花」とゲットー W.ラーベ抄 ⑤

 

f:id:zkttne38737:20151201090734j:plain     ・それから、28歳のとき、わたしは南ドイツに旅をしたのだが、これは人生経験をどれほど、豊かなものにしてくれる上で役立ったことか。この旅によって、それぞれの地方の文化や市民生活に肌で触れることが出来たし、人の歓びを目の当たりに感じることができたからだ。 また、ライプツィッヒやドレスデンでは、すでに権威ある何人かの作家にも接する機会があったものだった。---その一人は当時、43歳だったG.フライターク氏*⑬だったが、氏の「借りと貸し」などはよく知られた作品で、今でもよく覚えているが、もう1人は48歳だったK.グツコウ氏*⑭で、氏の「精神の騎士たち」という長編は全9巻もある厖大(ぼうだい)な社会小説で、氏はそれを誇りにしている作家でもあったのだよ。    わたしはまた、プラークへも立ち寄ったのだが、そこではユダヤ人墓地を訪れる機会があったのだ。そうして、それが機縁で着想を得て、のちにできたのが「ライラックの花」(生命の家の思いで)*⑮だったのだ。

  <<...一千年も前から、ゲットーの狭い壁の中に、ユダヤ人たちが閉じ込められていたように、神の民であるユダヤ人の死者たちも、ここに集められ葬られていたのだ。・太陽は明るく輝き、春であった。ときおり、さわやかに微風がライラックの花と小枝を揺すると、それはかすかな音で墓地の上にざわめき、大気を甘い薫かおりで満たしていた。それなのに、わたしは次第に、息苦しくなるばかりであった。というのも、この墓地がベト・ハイム、即ち、"生命の家"と呼ばれている場所だったからである。>*⑯   (*谷口 泰・訳)                 

    ---(注)----:

*⑬・フライターク、G. Freytag 1816- 95   ディケンズに範をとり、長編「借りと貸し」   Soll und Haben,を 50年に発表した。これは当時のブレスラウを背景に、 没落していく貴族と勃興する市民との種々相を写実的に描いたものである。

*⑭・グツコウ、K. Gutzkow. 1811-  78.   <若きドイツ派>の代表者で、新しい長編小説は   並列関係の小説でなければならない、という宣言と共に 、全4500ページの小説精神の騎士たち」  Die Ritter von Geiste.1850-51/を発表した。これはあらゆる階層の人々を登場させて、当時の社会の実相を描いた社会小説である。

*⑮「ライラックの花」  Holunder-blute. 32歳の作。

*⑯この短篇の全訳は、上智大学独文論集18.  1981.S.31 以下に掲載されている。なお、ここでの引用箇所は、 同訳文中のS.99.からである。