HERR*SOMMER-夏目

現代ドイツ作家・詩人の紹介を主に・・・

*「西東詩集」 ゲーテ 覚え書き

 

「西東詩集」West-Ostlicher Divanはゲーテ晩年(65-66歳)の作である。1749年生誕のゲーテ1832年に物故するまで、83年という星霜を生き抜き、かつ、その大半を休むことなく精力的に活動しつづけた文豪・詩人であり、その間にはワイマールという小公国で宰相にも就いた稀な経歴の持ち主でもある。その幅の並はずれて廣い、遙かに聳え立つゲーテではあるが、彼の文学的金字塔から三つの作品を挙げるとするならば、一つは戯曲における、あまりにも偉大な大作と言ってよい「ファウスト」であり、一つは教養小説(ビルドゥングス・ロマーン)の大作「ヴィルヘルム・マイスター」であり、晩年になった異色のといってもよい抒情詩における「西東詩集」(ディーヴァン)である。そして、これらはいずれもが大河のごとく悠然として流れ、どの部分をとってみても恰も、宝石のごとく輝きに満ちており、魅力にあふれているといっても過言ではない。

 さて、ここでみてみようとする「西東詩集」であるが、時代的には1789年のフランス革命につづくナポレオン時代の混迷と不安があり、(ゲーテは因みに、ナポレオンに60歳頃に謁見しており、またナポレオンはゲーテの若き時のセンセーショナルな純愛・書簡体作品である「若きヴェルテルの悩み」Die Leiden des jungen Werthersを何度も読んでいたという少なからずの因縁があるのだが)、その中にあってゲーテの精神は、遙かな族長の国である東方に関心がいっていたのである。