HERR*SOMMER-夏目

現代ドイツ作家・詩人の紹介を主に・・・

*「ヘジラ」:「西東詩集」 より 

 

「西東詩集」はゲーテ晩年になった作だが、東洋はまさに族長的な世界の地であった。そして、それは瞑想的な老年ゲーテの気分に適合した。そのような現実性から隔たった避難所としての東洋にゲーテは親縁性を見たのであった。

巻頭の詩、ヘジラHegire(移住)は老年ゲーテの遠方への魅力と逃亡から生まれたといって差し支えない。

   北も西も 南も砕け  王座は裂け 国々は震える 

移り住もう 清らかな東方で 族長の国の 大気を味わおう

愛と酒と詩にひたって キーゼルの泉で若返ろう

その純朴な正義の地で 人類の原始の深みに分け入ろう 

そこは人々が まだ 神から天の教えを地の言葉で享(う)け 

  憶測して悩むことなかったところ

民は父祖を崇(あが)め敬(うやま)ひ 異郷の勤めを

すべて拒んだところ 認識は狭くとも信念は厚く

若さの境地を愉しむところ そこで重んじられた言葉は

口から口へ 口から耳への伝承的な一語一語 !!.. 

 

「西東詩集」は12の書からなり、約250篇からの全作品に一つの統一がなされているのだが、それはなにかというと、謂わば、ゲーテ晩年の気分の統一といったもので、それを言ひ換えるならば、考えうる最も拘束のない統一、即ち、「清らかな東方の、族長の国の空気の統一と、それへの憧憬であった。 

  Nord und West und Sud zersplittern,

Throne bersten, Reiche zittern,

Fluchte du , im reinen Osten 

Patriarchen-Luft zu kosten,

Unter Lieben ,Trinken, Singen,

soll dich Chisters Quell verjungen.

Dort , im Reinen und im Rechten,

Will ich menschlichen Geschlechten

In des Ursprungs Tiefe dringen,

wo sich noch von Gott empfingen

Himmels-lehr'  in Erdesprachen,

Und sich nicht den Kopf zerbrachen.

 

Aus: Hegire :  Buch des Sangers (Moganni Nameh)