HERR*SOMMER-夏目

現代ドイツ作家・詩人の紹介を主に・・・

*「昇天の憧れ」Selige Sehnsucht   「西東詩集」 より ④

 

ところで、ペルシア的東洋の中に、東洋の人間的中心として一人の崇拝者たるハーフィスを見たゲーテは、そのハーフィスに懐かしさを感じる。*** 

誰にも 告げるな 賢者のほかは 衆愚は すぐに 嘲笑ふから 

 わたしは 讃えるのだ その生きものを  

炎に 焼かれ 死を願ふものを

おまえが つくられ おまえが つくる 

涼しい 夜の 愛のいとなみ

 そのとき 蝋燭の灯が 秘かに 燃えると

不思議な 思ひが おまへを襲ふ

暗闇の 懐(ふところ)に 抱かれた おまへは

じっとしては いられなくなり 

新たな 激情に 駆り立てられると    より高い交わりを 

切なくも 求めるのだ  すると その刹那 

どんな隔たりにも 妨げられず 

呪われたように 飛び逝く 

光を もとめて 灯に 飛び込んでゆき

 身を 焼いてしまふ 蛾よ

  死して 成れ !!  このこころが 分からぬかぎり 

おまへの 行為は この地上では

 儚(はかな)い 比喩に すぎぬだらう

                                         ***「詩人の書」より

 東洋の詩人ハーフィスが生きた14世紀のペルシアは、ティムールが暴威をふるった中世の戦乱時代で、幾多の国家が壊滅し、簒奪(さんだつ*王位をうばいとる)者が横行する。そんななかで、まさに悠然として享受し、そして静観する詩人賢者の形姿と姿勢を模範として見て取った晩年のゲーテであったが、ハーフィスは少しも平生と変わらぬ態度で歌ひつづけた。強大な専制君主の前にあっても、びくともしなかった詩人ハーフィス。:ゲーテはそこに一人の真実な人間の最も純粋な賢者にして偉大なる詩人を発見して、大きな感動を抑えることが出来なかったのである。       ***