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HERR*SOMMER-夏目

現代ドイツ作家・詩人の紹介を主に・・・

*或る転轍手の冒険   アルトマン より

現代ドイツ短編選

 

⑴ U.P.鉄道の或るポイント切り替え人の責務はおおきかった。固より、彼には人命に対して、重い責任が課せられていたからに他ならない。

⑵ だが、この彼はいつも、一冊の愛読書を携えていて、その習慣は10年来、変わってはいなかった。そして、また、彼が読むのは77ページまでで、その先はきまって、読まないのである。それというのも、想像にたけた彼には、その先は大方、予想がついたからに他ならない。先へ読み進めていくのは、バカバカしいとさへ思ってもいたのだった。だが、彼は、にも拘らず、繰り返し最初から読むことにだけは飽きたことはなかった。

⑶ 男は読んでいる間、パイプを口にくわえているのが常だった。彼には妻がいなかったので、夕方におそい勤務が終わると、居酒屋に寄っては一本のビールを飲むのを楽しみにしていた。

⑷ 9:30pm.の最終列車が通過し終わると、男は列車が視界から遠ざかるまで見送り、やおら、肩の荷を下ろしたように、ほっと息をつくや、居酒屋に向かうのであった。

⑸ このポイント切り替え人が常に携えている新書版の大きさの本は「U.P.急行のイケメン」というタイトルの薄く、安っぽいものだったが、

彼は今日こそ最後まで、読み終えてしまおうかと思っていた。が、そうは思っても、やはり、いつものところで止まってしまうだろうと思ってもいたのだった。

6⃣ それから間もない或る日の夜の11時ごろであったが、居酒屋から出てしばらくのち、見慣れぬ光が視界に入ったかと思うや、気が急くように家路に急いで戻っていった。と、その時、一瞬、列車が1両、スピードを上げて走ってくるのを見た気がした。それは固より、時刻表に乗っているものではないのは決まっている。のみならず、その列車からは騒音一つ聞こえてはこないで通り過ぎていったのである。

7⃣ 男は一瞬、息をのみ、目をぱちくりと瞬かせているばかりであったが、何が何だかわからないまま、一人ぼっちの家に戻ると、ビールをまた、取り出して来るや一気に飲み干していた。そして、飲み干すや、思い立ったように、77ページから最後の128ページまで破り捨てていたのであった。そうして、ほっとしたように呟いていたのである。

「これで、もう大丈夫だ」と。そして、その瞬間、倒れるように崩れ落ちるや、ベッドに体をずりこませて熟睡していたのだった

    ***     拙訳より

* H.C. Artmann : Abenteuer eines  Weichen -Stellers

  Aus; Dt. Literatur der 60. Jahre

         Klaus Wagenbach Vlg. Berlin 1968..

* アルトマンはシュールリアリティックな手法で、夢と幻想の世界を描いた作家である。