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HERR*SOMMER-夏目

現代ドイツ作家・詩人の紹介を主に・・・

*アネクドーテ ⑧ 「ナポレオン軍遠征に関する逸話」 クライスト より

 

「1809年、皇帝軍遠征に付き従いて」( ルードルシュタット宮廷出版 )と題された書物のなかで、ナポレオン皇帝に関して、次のような逸話が記されている。

それによると、作者はナポレオンの力量に憐憫の念を感じつつ、こんな奇妙な一例を伝えているのである。--:

  周知のごとく、アスペルンの戦いで負傷したラン元帥を、ナポレオンは長いこと、衝撃とともに、腕に抱え込んでいたのであるが、この戦いの日の夕方のことである。ナポレオンは散弾の火の玉の飛び交う只中で、味方の騎兵隊に猛攻撃を開始させたのである。が、大多数の負傷兵らは倒れ伏したまま、傍らで沈黙をつづけていた。ところが、この目撃者の語るところによれば、倒れていた負傷兵らはもはや、これ以上、負担はかけたくないとうめき声をあげたという。

 その後、フランスの全甲冑騎連隊は、敵軍の優勢をかわしつつ、味方の倒れ伏している負傷兵らにも構わず、退却を始めた。すると、俄かに、嘆きの甲高い声が沸き上がるや、甲高い叫びをあげて他の一切の物音をかき消してしまったという。すなわち、

「皇帝閣下、万歳 !....皇帝閣下、バンザイ !...」

すると、ナポレオンは振り向くや、顔を手で覆ったものの、目頭からは滝のような泪がどっと、溢れ出てくるや、平静さを保つのがやっとだったというのである。

   *** 

*H. von Kleist: Anekdote (8)  Napoleon

 Aus: Anekdoten-Bearbeitungen . Samtliche Werke

   Hanser Vlg. ebd.  S.282..

   (Erste Ubersetzung,  1987.8.21..拙訳から。)