HERR*SOMMER-夏目

現代ドイツ作家・詩人の紹介を主に・・・

*或る税関番と賢者・老子  ブレヒトの散文詩 より

彼は 70になり 肉体に 衰えを感じていた

すると 安らぎを求め 老賢者の 心が つよく動いた

天なる下では 仁慈も廃れ 邪悪が 満ち始めていた

彼は こころを 決めるや 入用なものを 荷造りした

毎晩 紫煙を燻らす 煙管や 愛読書の 一巻の書物

なかでも はずせないものの ひとつであった

老賢者は 国境の 山中へ 辿りつくと もう一度

廣い 高原の景色に 目を向けた そして それを 

脳裏に しっかりと 刻むと 先へと 歩を進めた

牝牛は 彼を背に 新鮮な草を 喜んで 食べた

     **

旅立ってから 四日目だったが 岩ばかりの山中で

ひとりの 税官吏が 現れ 老人の道を さえぎると 

云った---  税関だが 貴重品は お持ちかね ---

そんなもの 持ち合わせては おらぬがな・・

牛をひいていた 少年は 口を挿むと 云った

この方は 教師さまだよ・・それを聞くと 

こころが なんとんく 弾んできた 税関番は 訊ねてきた

なにか 貴い教えでも 教授なさっていたのかね・・

すると 少年は 云った --- 

弱い水も 動きを やめなければ やがて 

固い 石だって 砕いてしまう ものさ・・

こういうと 少年は 先を急ぐかのように 牛を駆り立てた

そして 一本の大きな 黒松のところに さし掛かるると

なにか 閃いたように 税関番は いきなり 叫んだ ---

おおい 待ってくれ !.... それで いったい 

その水の教えとは 何なのかね ?... すると 老教師は

云った --- そんなことを 訊いて 面白いのかね・・

すると 男は云った -- わしは しがない 国境の 

税関番を しておりやすが 勝ち負けと 聞けば 

気になりやしてね それを 知っておりやすなら

お教えを 被りたいと 思ったもので・・・いや、

書いていただけたら 嬉しく 思いやすものでして・・・

わしの家には 紙も墨も ありやす・・夕飯だって

用意しやす ・・わしの住まいは あそこですが

お願い できますかな ?...

      ***   つづく Fortsetzung.

B.Brecht ; Laotse auf dem Wege in die Emigration