HERR*SOMMER-夏目

現代ドイツ作家・詩人の紹介を主に・・・

* 「美しき惑ひの年」 カロッサ より 

 

 * 「美しき惑ひの年」;Das Jahr der schonen Tauschungen はカロッサ;Carossaの医師を目指して学ぶ学生時代を扱った短篇だが、こんな詩も挿入されており、見事な訳者の訳詩であるが、何年か前に訳したことがあり、SNSで発表し多くの人に読んでもらったこともある親しみある詩である。:

     ***

「詩だよ!.. まだ印刷されてないんだ。 詩人の自筆なんだよ」

フーゴーは手に封書を持っていた。それを激しく振ってみせ、遠くから期待しておれという意を伝えていた。

「デーメル ,Dehmel か ?...」と私は大声で云った。

「いや、デーメルじゃない。・・だが、これは新しい時代の産んだ最美な詩の一つさ・・」

彼が私たちのもとに来るや封書から、早速、取り出した白い紙片をみると、投げやりではあるが、個性豊かな筆跡で次のような詩が書かれていた。そこには 作者の名は書かれていなかったが、表題は「二人」Die Beiden と認められていた。

       「若いふたり」:

ささげ 運びし 杯と

輝き 競ふ 乙女の かんばせ(顔)

あゆみ 軽ろく 爽やかに

縁(へり)から 一滴(ひとしずく)も 零れることなき

 

手裁(てさば)き しかと 軽やかに

鞍の上から みやび をのこの 

姿 華やぎ ゆたかなる

駒を 事もなげに 止めいでし

 

さあれ いましも いと軽く

杯 ささげ とりたるも

たがいに 難しく 二人には

手と手は かち合わず

 深紅の 酒は 地に 零れをり

    ***

因みに、詩人の名はホフマンスタールHofmannsthal で、 彼はシュニッツラーと並び、19世紀オーストリアの世紀末を代表する詩人、劇作家であり、わが国でもよく知られている。