HERR*SOMMER-夏目

現代ドイツ作家・詩人の紹介を主に・・・

*「クレーヴの奥方」や「ルネ」といった・・:プルースト「スワン家の方へ」より

 

 

・・ピアノの鍵盤では あちこちに鍵盤を構成する愛情・情熱・勇気・平静といったキーのうちの幾つかが 未踏の闇によって 互いに隔てられていて、その各々は宇宙が一つ一つ異なるように 他のキーと異なっているのだが、それらは偉大な作曲家にみいだされ、見出したテーマに対応するものを われわれのうちに目覚めさせてくれるのである。そして こちらの知らぬうちに空虚や虚無とみなしている自分たちの魂の絶望的な夜が、どんな富や変化を隠し持っているかを示してくれる。作曲家ヴァントゥイユの小楽節は 理性には曖昧だが非常に充実した内実が感ぜられ新しく独創的な力を賦与しているのである。それでこれを聞いた人は 知性の観念とともに 彼の小楽節をこころに留めておくのだった。

スワンは愛と幸福の概念として これを思い返していると、いつしか あの「クレーヴの奥方」や「ルネ」が憶い出されてきて、それがどういう点で特別なのか すぐわかったのである。

  *** プルースト失われた時を求めて」 より

Vgl.

クレーヴの奥方」: 17世紀の閨秀作家・ラ・ファイエット夫人の代表作。

「ルネ」: シャトーブリアンの作。