HERR*SOMMER-夏目

現代ドイツ作家・詩人の紹介を主に・・・

*ホーソン: 「緋文字」より

 

しかしヘスター・プリンは首を横に振った。

「よいか、神の慈悲の限度を超えてはならぬ」

ウイルソン老牧師は 一段と 荒々しい口調で云った。・その子の父親の名前を云うのだ。そうして懺悔すれば、その緋文字を胸から外してやってもいいのだぞ」

「いやです、できません」とヘスター・プリンは若い牧師の苦悩に満ちた目を見つめて云った。

「これは お取りになることは許されません。 それに  この方の苦しみも 共に耐え忍びたいのです」

「云うのだ」冷やかな別の声が 群衆の中から聞こえた。

「いうのだ。そうして その子の 父親を明らかにするのだ」

「いえません・・・」とヘスター・プリンは真っ青になりながら答えた。

「この子は 天にいます父を求めなければいけないのです。地上の父親は教えられません」

哀れなこの罪人の心が 手に負えないとわかると、老牧師は群衆に向かって、《A》という不名誉な文字に 絶えず言及することを忘れず、一時間余り論じたてた。  そのあいだ、ヘスター・プリンは虚ろな もの憂げな眼で恥辱の台座に、その朝、立っていたのであった。

  ***   Hawthorne : The  scarlet Letter