HERR*SOMMER-夏目

現代ドイツ作家・詩人の紹介を主に・・・

*ジョン・バース「酔いどれ草の仲買人」より

 

詩の末尾に、メリーランドの桂冠詩人にして紳士たるエベニーザー・クックと書き添えた彼の二行連句詩篇は、船側を泳いだり、航跡に船を追うてくる海豚の群れを、歓喜に酔いつつ眺めては、ミルトンやサミュエル・バトラーの著作を取り出し、これを参考にしながら初めて眼にするメリーランドの俤(おもかげ)を描いたもので、こんなことが書かれていた。:

  トロイアを撃ちて戻りし ユリシーズ

  破れ衣を纏(まと)い 彷徨う西の方

  白波の踊りし海の荒野を

  十年に渡りたる放浪にも倦み

   竟(つい)に見し イサカの浜辺

   嗚呼 身に沁みたる苦難は去り

  まことに 天国にも似たる岸辺も

  武骨たる岩も 蕭条としたる磯も

  見つれば 妙に魅するものと・・ 

されば 誇りなる この国の

天国を凌ぐ美しさは 如何ばかりか

黄金なす砂浜も 翠(みどり)なす木立も

心地良き港は 疲れ果てたる水夫を癒し

眼に入りしものは 悉(ことごと)く麗しく

詩人の歌も 妙なる言葉を重ねつつ

メリーランドの魅惑を 須(すべか)らく

 語りつくさん この時ぞ

海原の果てしなき難所を いや逃れ

恙(つつが)なく 辿りつきたる歓びは 如何ばかりか

船人は 船の高き帆柱に攀(よ)じ登り

 噫 目のあたりに見る 郷(さと)の美しさよ!...

   * John Barth : The sot-weed Factor