HERR*SOMMER-夏目

現代ドイツ作家・詩人の紹介を主に・・・

*ヘッセの手紙 : ラーベ抄 より -15.

         

  31年生まれで78歳になっていたW.ラーベは数年前に筆を絶ち、僅(わずか)な人に知られているにすぎなくなっていた。そのころ、ヘッセがブラウンシュヴァイクに講演に来た折り訪ねてくる。ヘッセは20代後半に発表した「青春 彷徨」(ペーター・カーメンツィント)や「車輪の下」などで名をなし32歳になる壮年作家である。その彼が、こんなことを書き送ってきた:

  親愛なるW.ラーベ様

若かりし頃、あなたの作品を拝読いたす機会がありました。が、それは半(なか)ば気に入りましたものの、また半ば、気に入らぬものでもありました。と申しますのも、あなたの作風は独自の入り組みようで脱線の多く、さまざまな要素の入りまじった内実は、実に実体の捉(とら)えがたいものだったからです。勿論、そこに出てきます一風変わった奇人の類(たぐい)は、心を直ぐに引きつけました。が、同時にまた、すぐ離れても行ってしまったのです。私には縁遠い、どこか北ドイツ的なもの、それに何処か市民的・愛国的なものは、まったく寄せ付けないものではないにしても、どことなく教師然とした様相が想起されたからなのです。が、それ以来、機会あるごとに読んでまいりました。すでに10篇余りになりましょうか。すると、ようやく、理解できるようになったのです。今では、こころから敬意を表しております。 あなたは50年代から80年代にかけての、わがドイツの有様を見事に、文学的に活写されておりますし、また、空想豊かな物語作家であり、粘り強い批評家であり、不撓不屈の心やさしき国民愛好者だからです。あなたの書かれたものはユーモアに富み、ペーソスに富み、人間愛に溢れた眼差しで庶民の生活と運命を見つめておられます。あなたの作品は末永く読み継がれ、真に偉大な作家の一人となられることでしょう。それを心から確信しておりますし、そう願ってやみません。     作家伝「W.ラーベ抄」 

 ( 注 )  :

①Der Weg zum Lachen,   1857.ラーベ、26歳の作。

➁身を屈めよ、山々、Erhebt euch , ihr Taler ,  Sinkt nieder , ihr Hohn;   Ihr hindert mich ja, Meine Liebste zu sehen ; Aus: Die Akten des Vogelsangs ,   Wilhelm Raabe,        dtv.  1981. S.100.

③H.ヘッセ: Hermann Hesse , 1877-1962, 南独のシュヴァーベンの小さな町カルプに生まれた。書店員をしたこともあり独学で文学を学び詩作に努めた。1904年「ペーター・カーメンツィント」を書き上げると、一躍、人気作家となったが大都会には出ず9歳年上のベルヌーイと結婚するとライン河畔の寒村で創作に専念した。Peter Camenzind,  Unterm Rad , usw... などの作品がある。    

④1909年、ヘッセは32歳の時、講演のためブラウンシュヴァイクを訪れたことがあった。こで78歳になった最晩年のラーベを訪問した。この時のことをヘッセは後の1933年に書き記している。        

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