HERR*SOMMER-夏目

現代ドイツ作家・詩人の紹介を主に・・・

*「古代ワルプルギスの夜」 ゲーテ「ファウスト」第二部 より

 

   *場面は: ファルザスの古戦場で、辺りは  暗黒である。

 魔女・エリヒトーの独白 から:

 ハーイ、あたしはエリヒトー、夜の魔女よ。毎年のことだけど、今宵も魔女たちの祭りに参上したわ。やくざな詩人たちが、大げさに悪しく言うほど、あたしは不気味な女ではないのよ。褒めるにしても、貶(けな)すにしても、詩人というのは際限を知らないんだから。

      あら、見渡せば谷間はもう、灰色のテントばかり、波打っているわ。あの蒼白く霞んでいる波のまにまに、過ぎし日の不安や恐怖が、夜の幻の中に交じりあっているのだわ。もう何年、これがくり返されてきたことかしら。そしてまた、これから先も、何年、繰り返されていくのかしらね。

   そう易々(やすやす)と自分の国は、人手に渡したくないものよ。力ずくで掠奪し、力ずくで統治しても、長続きするはずないものなのにね。他の国を奪い取り、他国を支配したがるのは、権力欲と利己的愛国心と驕慢のためかしら。そうよ、ここもそういう大きな戦(いくさ)のあった古戦場なのよ。暴力と暴力とが対峙した古戦場なのよ。美しい花や自由の花環があえなく引き千切られたところなのよ。月桂樹の冠が略奪者の頭を虚しく飾ったところなのよ。こっちの岸辺では、ポンペイウスが過去の栄光に酔っていたところかと思えば、対岸ではシーザーが運命の秤(はかり)の針を覗っていたところでもあるのよ。やがて、いくさが始まったのだけれど、勝利の女神どちらに微笑んだか、誰も知ってのとおりね。