HERR*SOMMER-夏目

現代ドイツ作家・詩人の紹介を主に・・・

*気高き船よ:「酔いどれ草の仲買人」より

気高き船よ 甲板より 船首船尾に至るまで ホメロスの ギリシア人が 東のトロイアに渡りし船の姿に似て 今 われらをメリーランドの岸辺に 運びゆく * 文学は、人生の単純素朴な態度を修正してくれ、人生はただ一つと思い込んでいる固定観念から、人を解放して…

*ジョン・バース「酔いどれ草の仲買人」より

詩の末尾に、メリーランドの桂冠詩人にして紳士たるエベニーザー・クックと書き添えた彼の二行連句の詩篇は、船側を泳いだり、航跡に船を追うてくる海豚の群れを、歓喜に酔いつつ眺めては、ミルトンやサミュエル・バトラーの著作を取り出し、これを参考にし…

*その日を掴め: ソール・ベローより

「・・ 私の友人が綿花について秘密の情報を流してくれたな。わたしは勿論、そいつをごっそり買ったよ。電話での買い付けで すると綿花の積み荷が、まだ海にあるうちに価格が三倍に高騰し世界の綿花市場がてんやわんやになる。するとこの船荷の荷主は誰かと…

*ジッド「贋金つかい」より

「文学で、例えば、ラシーヌ劇で父親と息子たちのやり取りほど感心させられるものはない・・」とオリヴィエの叔父で作家のエドゥアールは云った。 「いいですか。芸術は要するに、普遍的なものです。・・つまり、個別的なものによって普遍的なものを表現して…

*メルヴィル「白鯨」より

・・鯨全体の測り知れないほどの力が全て、尾鰭に集結しているかと思えるほどである。だが、この素晴らしい力は尾鰭の優美なしなやかさを聊かも、損なうものではなく、寧ろ、思わず見とれてしまうほどの動きの美しさである。・・ 真の力というものは 決して…

*噴水 :ボードレール「惡の華」より

噴き上げる 水は千々の 花と咲き 嬉々とした 月の光の 色に染まり しとど 泪の雨に似て 落ちかかる・・ おお 夜の闇に 美しきひとよ きみが胸に 身を傾けて 池のほとりに すすり泣く 月よ さざめく水よ 祝福された夜よ 辺りに 戦慄いている 樹々よ 汝が澄み…

*讃歌: ボードレール「惡の華」より

愛しさと 美しさの きわみにして こころを 光明で 満たしてくれるひと 天使のような偶像に 永久なる幸の あらんことを・・ そのひとは ぼくの中に 潮風のように拡がり ぼくの魂に 永遠の満足を 注いでくれる いつも新鮮な 匂い袋のような あなた あなたは 懐…

*ホーソン: 「緋文字」より

しかしヘスター・プリンは首を横に振った。 「よいか、神の慈悲の限度を超えてはならぬ」 ウイルソン老牧師は 一段と 荒々しい口調で云った。・その子の父親の名前を云うのだ。そうして懺悔すれば、その緋文字を胸から外してやってもいいのだぞ」 「いやです…

*A.マルロー:「王道」より

「いや違う」とぺルケンは云った。 「あっちの女だ」 《サディストかな、この人》とクロードは思った。 噂によると、ペルケンはシャム政府の依頼で未帰属部族のもとに派遣されたとか、ビルマ東部のシャン高原地方やラオス辺境地方の統合にのりだしたとか、バ…

*「クレーヴの奥方」や「ルネ」といった・・:プルースト「スワン家の方へ」より

・・ピアノの鍵盤では あちこちに鍵盤を構成する愛情・情熱・勇気・平静といったキーのうちの幾つかが 未踏の闇によって 互いに隔てられていて、その各々は宇宙が一つ一つ異なるように 他のキーと異なっているのだが、それらは偉大な作曲家にみいだされ、見…

*スワン家の方へ:プルースト より

17世紀オランダの画家 フェルメールについて オデットはスワンに訊ねた。この画家は女のために 苦しんだことがあるのかしら、ひとりの女からインスピレーションを与えられたことがあって?... これに対して スワンが実はまだ、何もわかってはいないのだよ、と…

*ミューズ;詩の女神: ボードレール「悪の華」より

なにを 語るつもりか 今宵 魂よ 萎れていた 心よ 美と 愛しさの きわみ 神のような 眼差しで ふたたび 咲かせた 女に・・ 誇りを 持ち そのひとの 歌を うたおう かのひとの 優しさは くらぶべき ものなき その霊肉は 天使の 香り その眼は 光の うつわ 夜中…

*女の 首飾り: モーパッサン より

「え、なんですって!..あなた、わたしに返してくれたじゃない」 「それがね、わたし失くしてしまったのよ。・で、全く同じようなのを返していたの。それで、わたしたち、その支払いに10年かかってしまったわ。わかるでしょう、容易でなかったのが。。私たち…

* フロベール「ボヴァリー夫人」より:

最初の頃、エンマは修道女たちとの交際を喜び、よく礼拝堂へ連れていかれた。エンマは教理問答をよく理解していたので助任司祭の難しい質問に答えるのは決まって彼女だった。 エンマは祭壇の薫香や聖水盤の冷やかさや、大蝋燭の光から発散される神秘的な物憂…

* 懐かしき夢: ハイネ より

懐かしき 夢を みた: 五月の 夜の こと ぼくたちは 菩提樹の 木蔭(こかげ)で 永久(とわ)の 愛を 誓って いた それは 新たな 誓い くすくす 笑ひ 愛撫し 接吻を 交わし あった ぼくは 誓いを こころ に留めた けれども ぼくを 苦しめて いた とは おお 恋人よ…

*《オタの谷》:モーパッサン「女の一生」より

創造は すべてのものの 胚芽を 内に含み 花や果実は 樹の枝につき 生育する 思想と生命も また 同じ: 創造の 懐に抱かれて 育っていく *** 彼にとって生殖とは、普遍的な自然の大法則に他ならない。それは神聖で犯さざるべき崇高な行為なのである。 それ故、…

*行けよ、ミサは終われり:G.グラース「ブリキの太鼓」より

三人の少年は祈禱から始めた。 赤と白のミサの衣を着たレンヴァントの兄は香炉を持ち、弟は祭鈴を持っていた。代理司祭のいでたちをしたコーレンクラウがミサに必要な品を全部持ってきた。司祭の衣はだぶだふだったが、なかなか巧く真似ていた。最初は皮肉た…

*「トリスタンとイゾルデ」: プラーテン 

ペルシアのガゼル詩の形式美を駆使し、ドイツ詩に新たな地平を切り開いたプラーテンのロマンティックな詩から。 --因みに、プラーテンは晩年のゲーテと多少の親交のあった形式美に優れた詩人。** 美の魅惑に憑りつかれし者は 遁れる 術(すべ)もなく やがて …

*3歳のブリキの太鼓奏者オスカル:G.グラスより

・ぼくは太鼓にしがみつき3歳の誕生日以降、1センチも生長しなかった。ぼくは三歳児のままだったが、3倍賢い子供だった。つまり大人より背は低いが大人を凌駕していた。・・ そのころ僕はいかなる場合にも政治家にはならない、まして食料品店主にはならない…

*西洋の現代文学に関して:

・西洋の現代文学に関して:-- 世界をラジカルに懐疑し信じられないという立場の代表が、フランスの実存主義の作家、例えばサルトルとカミユならば、ドイツ文学圏のカフカは世界観はこれに近いが、異なるのはいかにしたら打開できるか問うところである。: 前…

*アヤックスの盾には絡みつく蛇が:

* 8909- 9126 : ・この箇所はフォルキアスの台詞、「薄曇りの朝、輝きまばゆく真昼の太陽よ!.」以下、第三幕その1の最後までの場面であるが、それまでのヤンブスのトリメーター、短長・抑揚格の3音格詩がトロケーウスの長短・揚抑格のテトゥラメーター、即…

*たくらみと恋 : Kabale und Liebe

貴族で宰相の息子フェルディナントと市民の娘ルイーゼの悲恋を描いて成功を収めた戯曲に「たくらみと恋」があるが、これはゲーテと並び、ドイツ古典主義を代表する戯曲家シラーの悲劇作品で、シラーの言葉にこんな一節がある。: 「とりとめのない談話も、偶…

* おしなべて 太陽が純金と・:「ファウスト」第二部より

・4728~5064 : この箇所は対話形式の韻文で書かれ、4-5の揚音・強音が自由に、あるいは、相互に繰り返されていく。 4955~ : 皇帝の 玉座の間にて: ・天文博士:Astrolog: メフィストフェレスも小声で同じ言葉を繰り返している。: おしなべて太陽が純金とい…

* トルストイの「アンナ・カレーニナ」: 第一部 

「幸福な家庭は似通っているが、不幸な家庭はその様相はさまざまである。」 「アンナ・カレーニナ」のこの冒頭部は、よく知られた一節だが、この長編の第一部の11には、ハイネの詩の一節も挿入されている。: 抑えがたき この世の欲情に打ち勝てば どんなに救…

* 滑稽歌劇 :「赤と黒」 より

'おお 春四月 定かならぬ輝き 恋愛も これに似て 陽の輝きに あふるるも やがて次第に 雲はすべて奪い去り・・ ' シェイクスピア 第一部第十九章 導入部より *** もし革命が勃発したら、どうしてジュリアン・ソレルがロラン(フランス革命時代の政治家)の役割…

*「砂時計 」: ハイネ  

砂時計の砂が わずかづつ 落ちていく 妻よ 愛しいひとよ 死が わたしを引き裂いていく 妻よ 死がお前の腕から わたしを引き裂いていく 抵抗しても徒労に帰すだろう 死は 魂まで引き裂いていく わが魂は恐怖で死にたい思いだ 死は棲み慣れた家から魂を追い出…

*奇(くす)しき薔薇 :

バラの香りの愛(いと)ほしく 息吹の真っ赤に燃ゑしとき 愛しきバラの香よ ! そは聖母マリアの御慈悲により バラは奇しき薔薇となり・・ されど タンポポの 花咲き終わるや そが冠毛は風に舞ひ 四散して 遠く近くに着きしなり されど そが繰り返し繰り返すは …

* 半獣神風: 異才の詩人 デーメル:

俄に 広間は会衆で一杯になった。いよいよデーメルが現れた。すると彼は檀の真ん中に進んで無造作に一礼すると、すぐ朗読を始めた。彼は熱情に満ち屈強で、また宣教師風でもあり、更には半獣神風で異彩を放っていた。 しかし今や詩が可視的なものへの関心か…

* 老子と「道徳経」承前 :ブレヒト  

肩越しに 老賢者は目を向けた 男は破れた衣を着 額には太い皺が走り みるからに 寂れた風袋だった なのに 見上げたもの-- 老賢者はつぶやくと 声高に云った : 求められたからには応じよう 老賢者は牛から降りると 七日間 少年に口述筆記をさせた その間 税関…

* 税関番と賢者・老子 : ブレヒト 

老賢者は70になり 衰えを感じると 安らぎを求めた 天なる下では仁慈も廃れ 邪悪に満ち 彼はこころを決めるや 入用なものを荷造りした 毎晩 紫煙を燻らす煙管や 愛読書の一巻は はずせないもののひとつであった 老賢者は国境の山中へ辿りつき振り返ると 廣い…