内部世界の充実は 犠牲によってのみ得られる。
ルドルフ・カスナー
19世紀末、転換期のウイーン文学界で際立ったのはエッセイというジャンルが新たな意味で発展したことであった。そのよき例として、ホフマンスタールが挙げられるのだが、彼は外国の詩の持つ魅力について目を開かせた一方、「チャンドス卿の手紙」において架空の書簡によって、文学の持つ言語に新たな見直しを迫り、文学の新しい課題に立ち向かったのである。これは文学が直面する新しい問題を、言語そのものの危機と捉えていたからに他ならない。
人間の内部世界はすでに、嘗てないほど拡大していた。ニーチェのニヒリズムやダヌンツィオの夢幻世界、また、ドストエフスキーの小説といったものが、そのよき例といってもいいのだが、そのころ台頭したフロイトの精神分析などもまた、内部世界をますます掘り下げ、深層をみて行こうとするとき、従来の言語では捉えきれなくなっていたからであった。----
そこで表現形式が見直されたのが、エッセイであった。この分野で当時、活躍した一人にR.カスナーがいる。そして、彼の考えは、ホフマンスタールやリルケといった文人にも、思想として影響を及ぼしたのみならず、文学の世界にも大きな役割を演じていたのである。