老いた前将軍ルクルス。:
彼は、嘗て、全盛期にアジアに出征した。すると、ポンペイウスはこの時とばかり、陰謀を巡らし彼を排斥した。 ルクルスが真のアジア征服者だと崇められていることを承知の上で。
・ 紀元前63年初期。: ローマは政情が不安定で、ポンペイウスは長期にわたり出征し、アジアを竟に征服する。この将軍の凱旋も今を遅しと望まれていたのだ。
・緊迫がつづいていた或る日である。:
ティベル河畔の宮殿の大庭園の一角で、小柄で痩せた男。大理石の階段に座り、訪問客を待ち受けていた。前の将軍ルクルスである。
出迎えていた客人は詩人のルクレティウス。
・ ルクルスはルクレティウスを歓迎し、ホールへ案内した。詩人にゆっくり英気を養ってほしいと。だが、ルクレティウスは無花果の実に手を伸ばしたものの、一口食べたに過ぎない。
さて、ひと息ついてのち、二人のあいだで交わされた話は、政治ではなく哲学の問題になったが、やがて、ルクルスは詩人が書いた教訓叙事詩「本姓について」に触れ、神々から賜った恩恵に関して、それを迷信として片づけてしまうことは危険であると述べたのである。
・すると詩人ルクレティウスはルクルスの見解に対し、豈図らんや反論した。
*ブレヒト散文集より Aus; B. Brecht: Die Trophaen des Lukullus.
Suhrkamp Vlg. S.304.... Geschichten in: Prosa Band Ⅰ