HERR*SOMMER-夏目

現代ドイツ作家・詩人の紹介を主に・・・

*マルロー:「王道」より

「いや違う」とぺルケンは云った。「あっちの女だ」

      《サディストかな、この人》とクロードは思った。噂によると、ペルケンはシャム政府の依頼で未帰属部族のもとに派遣されたとか、ビルマ東部のS.高原地方やラオス辺境地方の統合にのりだしたとか、バンコク政府と、ある時は友好的だが、ある時は険悪であるとか、最近では批判も受け付けぬ力への情熱が見受けられるとか、その彼にも衰えが見えてきているとか、色好みになっているとか言われていた。

しかし、船の上では女たちに取り囲まれていたのだ。

《何かがある。だが、サディズムじゃない》   ペルケンはデッキチェアーの背に頭を持たせかけると、執政官の仮面が明るい光の中に顕れ、目のくぼみと鼻の影の明暗を際立たせていた。煙草の煙が立ち上り、濃い闇に消えていった。

                         A. Malraux「王道」より

*クロード: --フランス政府から派遣され、クメール遺跡の発掘を企てる26歳の青年。

ペルケン:--ドイツ人らしき伝説に取り囲まれ、シャム政府の依頼で未帰属部族の統合に乗り出したこともあり、幾多の酋長とも親しく、クロードの計画に心を寄せている。