HERR*SOMMER-夏目

現代ドイツ作家・詩人の紹介を主に・・・

*オデュッセウス: ブレヒトより: Ⅰ-1 (*16)

 ギリシアはイタケの王: 策謀家オデュッセウス

彼は、世の男を魅惑した美声のズィレーネンの島が見えてくると船のマストに、みずからを縛りつけさせた。櫂(かい)を漕(こ)ぐ者らには耳に蝋(ろう)で栓をさせた。       美声に心が乱れぬようにとの配慮から。

 島の近くに差しかかる、美声が聞こえてくる。と、漕ぎ手らはオデュッセウスの姿を見るや、いかに解かれたがっているか、ズィレーネンたちはいかに、傲然とかまえているかを見た。

 だが、申し合わせたとおり運ばれたかにみえた。すると、古代人は策謀は功を収めたと信じた。 --->>  

      以下は、作者ブレヒト独自の考察:から:-

    これに関して私の思いは違った。最初であったとは云うまい。私の思いとは、こんな風。:    だが、オデュッセウスは いざ知らず、誰が縛りつけられた男を前に本当に唄ったか。また、魅惑的な美女たちが、美声を、自由を失った男に浪費するだろうか。だとしたら芸術の本質から外れるのではないか。:

   ズィレーネンのとった振る舞いとは:

彼女らは 櫂を漕ぐ者には傲然たるように錯覚せられた。だが、実際は このプロヴィンツラー(田舎者)を罵倒していたのだ。

 かくして、オデュッセウスは無事、航海した。が、彼は とどのつまり、煮えくり返る恥辱を堪え忍んでいたに違いないのである。          

         古代神話の新解釈 より

 B.Brecht : Odysseus  und Sirenen,      Berichtungen   alter  Mythen,,

      Aus ; Geschichten     Prosa  Band 1.    Suhrkamp    ebd. S.207... 

 オデュッセウス:.....ギリシア神話。ホーマーの「オデュッセイア」の主人公。

ズィレーネン:....ギリシア神話。上半身は女、下半身は鳥の形をした海の怪物。

 

Vgl .....同じ素材を扱い、解釈が異なるものに 次のような作品もある。

  zB. カフカの短篇「人魚の沈黙」   Das Schweigen der Sirenen 1917.              

            カフカ短編集 岩波文庫 参照。

 

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*フランツ・カフカの「人魚の沈黙」という短編は、独特の文学世界を反映した作品で、カフカの想像力が生み出した現代のお伽噺として、新たな視点を提供した。

 これは、ギリシャ神話のズィレーネン(セイレーン)をモチーフにし、人魚の歌声による誘惑から身を守ろうとするオデュッセウスの話を基にしている。。。

カフカは、人魚の沈黙が歌よりも強力な武器であるといい、見かけの真実に挑戦するよう促し、人魚の歌声に誘惑されなかったオデュッセウスが、実は人魚の沈黙によって最終的に勝利を得るという逆転の展開を見せる。

カフカの作品はしばしば、現実と幻想の境界を曖昧にし、深い思索を促すことで知られ「人魚の沈黙」は、カフカが生前に公開した数少ない作品の一つで、彼の友人であるマックス・ブロートが遺言を無視して作品を焼き捨てずに公開したことで、後世に「誠実な裏切り」として残された。

カフカの短編集は難解とされ、想像力を刺激するが、解釈を急ぐ前に、まずは物語そのものの奥深さを味わうことが大切。カフカの短編集は、現代文学の中でも特にユニークで、常に新鮮な驚きと発見の源泉となっている。。。

 ・カフカの「人魚の沈黙」は、彼の短編集に収められ、ギリシャ神話のセイレーン(人魚)を題材にしたが、これはカフカが生前に発表した作品ではなく、彼の死後、友人マックス・ブロートによって出版されたもの。

カフカは自らの死に際して、未発表の作品を含むすべての文書を焼却するよう遺言したが、ブロートはこれを無視し、カフカの作品を世に残した。

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「人魚の沈黙」は、オデュッセウスがセイレーンの歌の誘惑から身を守るために耳に蝋を塞ぎ、自らを船の帆柱に縛り付けるという有名なエピソードを基に独自の解釈を加え、セイレーンが実際には歌わずに沈黙していたという逆転の展開を描いてい.るが、この沈黙こそが、セイレーンにとって最大の武器であり、オデュッセウスの勝利をもたらす要因となったのである。。。

カフカのこの作品は、見かけの真実に挑戦し、思い込みの力が心理的錯覚を生むことを示唆。セイレーンの歌声に誘惑されなかったオデュッセウスが、実はセイレーンの沈黙によって勝利を得たという事実に直面。この物語は、カフカの文学が持つ特徴的なテーマ、すなわち現実と幻想の境界を曖昧にすることで知られている。

フランツ・カフカの「人魚の沈黙」は、深い象徴性と多層的な意味を持つ短編で、ギリシャ神話のセイレーンに関する伝統的な物語を再解釈し、沈黙が最大の武器であるという逆説的なアイデアを提示し、セイレーンの歌ではなく、その沈黙がオデュッセウスに影響を与えたと描かれ、これは、実は、言葉や行動よりも無言の力が強い影響を持つことがあるという考えを示唆しているのだ。

また、この物語は、自己の認識と現実の間のギャップに焦点を当て、オデュッセウスはセイレーンの歌を聞くことなく、彼らの沈黙を見て、自らの勝利を確信する。しかし、それは彼の思い込みに過ぎず、実際にはセイレーンの沈黙が彼を勝利に導いたのだ。

とはつまり、人の認識が現実をどのように歪めるか、または補強するかについての洞察なのである。。。。