HERR*SOMMER-夏目

現代ドイツ作家・詩人の紹介を主に・・・

* デュレンマット: より

 「貴婦人、故郷に帰る」はこんな内容である。:

   主人公のクララは若いころ、イルから誘惑され貞操を弄ばれ娼婦と誹謗を受ける。が、世界で最も富んだ婦人となった彼女は62歳になると衰えてきたものの、めかしこみ故郷を訪れる。

この折り、市の産業と商業を代理人を通して買い占めていた。

貧窮に喘ぐ市民。彼らは富裕の彼女市に救いの手を差し伸べてくれるものと信じていた。が、彼女こそ市の経済困窮の首謀者とは知らない。

彼女は市の建て直しに金銭の援助を求められると、代償として、裏切られた商人のイルを殺害すれば、市を元の状態に戻すというのである。

何故なら、人道こそ大富豪の取引には相応しく、私の財力で市の秩序は必ず回復できる。のみならず、世間から娼婦として蔑まされたが、今度は世間を娼家としてみせしめるのだ。景気回復の下における世間への復讐というわけである。・・

これを聞くと市長はもとより、憤激し拒絶したが受け入れざるを得ない。

つまり、安寧と繁栄のためには正義を口実に決断してしまうのだ。

 そのとき、富豪の貴婦人イルには罪の意識と贖罪がなかったわけではないが、彼女自身、どうすることもできなかったのである。

 

この悲喜劇の最後にあるコーラス。

   コーラスによって作者は、イルの大胆さを或る意味、イロニーとして是認しているのだ。

 かくして、正義もまた、相対的なもの、という一種のパロディーとなっているのである。

 

  K.Rothmann . Die dt.sprachige Schriftsteller seit 1945                    Reclam  ebd. S. 116ff... より

 

Durrenmatt デュレンマット: 1921 - 90.  享年69歳。 スイスの劇作家 

  Der Besuch der alten Dame , Tragische Komodie  1956.

 

 

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