1934年、現ポーランド領に生まれたヨーンゾンのデヴュー作「ヤーコプについての推測」はこんな内容である。;
1956年11月の或る日、霧の中で28歳の鉄道保安員ヤーコプはドレスデン駅のプラットフォームで機関車に轢かれた。すると、推測はこんなふうであった。:
これは果たして、単なる事故か。それとも、政治的な清算か。
しかし、友人や知人らの会話やモノローク、また、語り手の推察にも拘わらず、解決は与えられなく、子細な吟味や検討が続けられていく。
即ち、組織内、オルグの紛争が彼の日常にどれくらい影響を及ぼしていたか。こうして、彼を養育してくれた姉は西部へ行く。するとNATOで通訳官となって国家保全に勤務するR.氏は彼女をスパイとして徴募しようとした。
ところで、ヤコプは非政治的で日常の仕事に没入してきた男だが、好奇心もあって西へ行ってみた。そして、悟る。:
西へ行っても異教徒にすぎぬ。そして東に戻っても、所詮は地に足が着いてはいないのだ。
ベルリンの壁崩壊以前の東西ドイツというものが存在した頃の話だが、この不条理ともいうべき狭間で彼の選択は畢竟、当時の社会主義体制の中で生きていくしかないと。
にも拘らず、彼はロシアがハンガリー暴動を鎮圧しているなか、ドレスデンにもどったその日、みずから死を選んでいたのである。
Ube Johnson ; K. Rothmann Die dt. sprachige Schriftsteller seit 1945.
Reclam ebd. S.200ff... ロートマン著より