案内されて漱石が現れた。どんな人かと純一は見つめる。
漱石の背丈は中ぐらい、顔にはカイザー髭。
漱石は鎮まるのを暫く待って 口を開いた。
「イプセンの話をということでありました。が、考えたことはありません。
ですから、知識は諸君とおなじ」 声を高めることはない。
話が進んで、こんなことを言った。
「イプセンは初めは小さいが、社会劇に手をつけてからヨーロッパのイプセンになった。ところが、わが国に伝わってくると、また、小さくなる。
なんでも、わが国にくると小さくなる。
ニーチェ然り。トルストイしかり。日本人はイズムを輸入し弄んでいる。
何もかも小さくなるから、怖がらない」
まあ、こんな調子。