1770年生まれのヘルダーリンはシラーと交友あったドイツの純粋な魂の詩人。が、彼は73年の全生涯の後半生、30数年を精神の闇に暮らした詩人でもあった。
彼の評価は高い。唯一完成した散文作品に手紙形式で書かれた「ヒューペリオン」がある。:
「ディオティーマ!..」とわたしは叫んだ。「何処に?...」
ある時、野に出ていた。それは泉のほとり、緑の蔦の纏わる岩と花の咲く木陰だった。このように美しい真昼時。まだ 見たこともなく、そよ風が香しく頬を撫でていく朝のさわやかさで田園は輝いていた。そして陽の光もまた、故郷の大気中を微笑んでいた。
そんな中、愛と春との共生。言われえぬ憧憬が胸を切なく占めた。
「ディオティーマよ、いずこに?...」わたしは叫ぶ。と、ディオティーマの声が聞こえてくる気がした。嘗ては、歓びの日々に心を燃え立たせてくれた美しき声。そが胸に迫ってくるのであった。
* Holderlin , Hyperion ヘルダーリンより
