彼は、世の男を魅惑した美声のズィレーネンの島が見えてくると船のマストに、みずからを縛りつけさせた。櫂(かい)を漕(こ)ぐ者らには耳に蝋(ろう)で栓をさせた。 美声に心が乱れぬようにとの配慮から。
島の近くに差しかかる、美声が聞こえてくる。と、漕ぎ手らはオデュッセウスの姿を見るや、いかに解かれたがっているか、ズィレーネンたちはいかに、傲然とかまえているかを見た。
だが、申し合わせたとおり運ばれたかにみえた。すると、古代人は策謀は功を収めたと信じた。 --->>
以下は、作者ブレヒト独自の考察:から:-
これに関して私の思いは違った。最初であったとは云うまい。私の思いとは、こんな風。: だが、オデュッセウスは いざ知らず、誰が縛りつけられた男を前に本当に唄ったか。また、魅惑的な美女たちが、美声を、自由を失った男に浪費するだろうか。だとしたら芸術の本質から外れるのではないか。:
ズィレーネンのとった振る舞いとは:
彼女らは 櫂を漕ぐ者には傲然たるように錯覚せられた。だが、実際は このプロヴィンツラー(田舎者)を罵倒していたのだ。
かくして、オデュッセウスは無事、航海した。が、彼は とどのつまり、煮えくり返る恥辱を堪え忍んでいたに違いないのである。
古代神話の新解釈 より
B.Brecht : Odysseus und Sirenen, Berichtungen alter Mythen,,
Aus ; Geschichten Prosa Band 1. Suhrkamp ebd. S.207...
オデュッセウス:.....ギリシア神話。ホーマーの「オデュッセイア」の主人公。
ズィレーネン:....ギリシア神話。上半身は女、下半身は鳥の形をした海の怪物。
Vgl .....同じ素材を扱い、解釈が異なるものに 次のような作品もある。
zB. カフカの短篇「人魚の沈黙」 Das Schweigen der Sirenen 1917.