「1809年、皇帝軍遠征に付き従いて」と題された書物のなかで、ナポレオン皇帝に関して、次のような逸話が記されている。--:
それによると、作者はナポレオンの力量に憐憫の念を感じつつ、こんな奇妙な一例を伝えているのである。--:
周知のごとく、アスペルンの戦いで負傷したラン元帥を、ナポレオンは長いこと、衝撃とともに腕に抱え込んでいたが、この戦いの日の夕方のこと。ナポレオンは散弾の火の玉の飛び交う只中で、味方の騎兵隊に猛攻撃を開始させた。が、大多数の負傷兵らは倒れ伏したまま、傍らで沈黙をつづけた。ところが、この目撃者の語るところによれば、倒れていた負傷兵らはもはや、負担はかけたくないとうめき声をあげたという。
その後、フランスの全甲冑騎連隊は敵軍の優勢をかわしつつ、味方の倒れ伏している負傷兵らにも構わず退却を始めた。すると、俄かに、嘆きの声が沸き上がるや、甲高い叫びは他の一切の物音をかき消してしまった。
「皇帝閣下、万歳 !....皇帝閣下、バンザイ !...」
すると、ナポレオンは振り向き顔を手で覆ったものの、目頭からは滝のような泪がどっと溢れ出て、平静さを保つのがやっとだったというのである。
H. von Kleist: Anekdote (8) Napoleon
Aus: Anekdoten-Bearbeitungen . Samtliche Werke
Hanser Vlg. ebd. S.282..
Erste Ubersetzung, 1987.8.21.. 32.Jahre alt...