年代記風に書かれた長編「故郷の博物館」Heimart-Museum:
これは追放された農民を例に、故郷ハイマートという概念の問題提起をしている。:即ち、 叔父から小さな故郷の博物館を受け継いだロガーラは これをナチスから守り、幸運にも在庫品の一部をも護った。
だが、ホルシュタインで買い求めた故郷博物館は偏狭愛国主義者から護るため放火してしまう。すると年老いた絨毯づくりの親方は悟ったのである。:
つまり、失われた故郷は少年時代と同様、取り戻すことはできなく追憶でのみ生き続けているのだ、と。
火傷を負ったロガーラが故郷の博物館の廃絶を、ひとりの訪問者に委ね、その経緯は第一次大戦から現在に至る彼の生涯の一パノラマとして描かれた。
こうして15日間にわたるエピソードのなかで心象風景を描いてみせたのだが、第13章の大逃走の描写はさておき、諧謔的ユーモアに富むアネクドーテ・逸話として語られたのである。
レンツの長短編のテーマは一貫して、裏切・迫害・逃走・抵抗、そして挫折であった。 そこでレンツが問題としているのは暴力行使ではなく、試練や苦難の時である。
Siegfried Lenz; 1926年生まれ。
学徒動員により第二次大戦下、前線に送られた。所謂、ロスト・ジェネレーション、失われた世代である。 また、イギリスで捕虜となった経験がある。
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