ラーベは28歳のとき南ドイツに旅をし、地方の文化や市民生活に触れ、人の歓びを目の当たりにした。 ライプツィッヒやドレスデンでは、何人かの作家にも接し、その一人は当時43歳のフライターク。彼の代表作は「借りと貸し」Soll und Haben。もう1人は48歳のグツコウ。彼の「精神の騎士たち」は全9巻の厖大(ぼうだい)な社会小説。
ラーベはプラークにも立ち寄り、ユダヤ人墓地を訪れる。それで、のちに「ライラックの花」(生命の家の思いで)を書く。:
一千年も前から、ゲットーにユダヤ人が閉じ込められ、ユダヤ人の死者も葬られていた。太陽は輝き春であった。ときおり微風がライラックを揺する。と、墓地の上には甘い薫が満ちていた。 なのに、次第に息苦しくなる。それは、この墓地がベト・ハイム、"生命の家"と呼ばれていたからだ。 谷口 ・訳
* * フライターク、G. Freytag 1816- 95 : ディケンズに範をとり、長編「借りと貸し」Soll und Habenを 50年に発表。没落していく貴族と勃興する市民との有様を写実的に描いたもの。
*グツコウ、K. Gutzkow. 1811- 78.:<若きドイツ派>の代表者。
全4500ページからなる小説「精神の騎士たち」Die Ritter von Geiste.1850-51には、あらゆる階層の人が登場、当時の社会の実相が描かれた。
*「ライラックの花」 Holunder-blute. 32歳の作。
・この短篇の全訳は、上智大学独文論集18. 1981.S.31 以下に掲載されている。