「美しき惑ひの年」Das Jahr der schonen Tauschungen はカロッサCarossaの医師を目指して学ぶ学生時代を扱った短篇で、こんな詩も挿入されて親しみある詩である。・ 「詩だよ!.. 印刷されてない。 詩人の自筆だよ」フーゴーは手にもった封書を振ってみせ、遠くから期待しておれという意を伝えていた。
「デーメル ,Dehmel か?...」と大声で云った。「いや、デーメルじゃない。新しい時代の産んだ最美な詩の一つさ」近くに来るや封書から取り出し白い紙片をみた。投げやりではあるが個性豊かな筆跡で書かれていた。作者の名は書かれていなかったが「二人」Die Beiden と認められていた。
「若いふたり」:
手に盃をもち 馬上の男に近寄るおんな:
軽やかに ぶれもせず 盃からは一滴も零れない
すると 軽やかに 鞍の上から手を差し伸べるをのこ
盃を受け取ろうとした刹那 さり気なく手綱を引くと
若馬は恐れおののき 上体をそらす
すると 女も恐れおののき をとこの体が揺れると
盃から 深紅の酒がひとしずく 零れ落ちた・・
因みに、詩人の名はホフマンスタールHofmannsthal で、 彼はシュニッツラーと並び、19世紀オーストリアの世紀末を代表する劇作家である。