HERR*SOMMER-夏目

現代ドイツ作家・詩人の紹介を主に・・・

*《オタの谷》:モーパッサン「女の一生」より

 

 創造は すべてのものの 胚芽を 内に含み

花や果実は 樹の枝につき 生育する

思想と生命も また 同じ:

創造の 懐に抱かれて 育っていく

  ***

 彼にとって生殖とは、普遍的な自然の大法則に他ならない。それは神聖で犯さざるべき崇高な行為なのである。 それ故、これによって世界に遍在する《存在》の不変の意志が実現されていくのだ。

 生命の迫害者である不寛容なこの田舎司祭はそれ故、自然の法則を踏みにじっており、人間味にまるっきりかけているとジャンヌの父親は白い長髪を振りたてながら大声で云うのであった。ジャンヌは傍でそれを嘆き悲しみ、主に祈り、やめてくれるよう父親に哀願した。

片や、司祭と云えば、偶然夫のジュリアンとジルベルトとの不倫を知ると、或る日、ジャンヌに会いにきた。そしてあなた自身の家庭に潜んでいる悪と戦い、これを打ち破って危険に瀕している二つの魂を救いたいというのであった。

  ***モーパッサン女の一生」より

 

 

 

*行けよ、ミサは終われり:G.グラース「ブリキの太鼓」より

 

三人の少年は祈禱から始めた。

 赤と白のミサの衣を着たレンヴァントの兄は香炉を持ち、弟は祭鈴を持っていた。代理司祭のいでたちをしたコーレンクラウがミサに必要な品を全部持ってきた。司祭の衣はだぶだふだったが、なかなか巧く真似ていた。最初は皮肉たっぷりにやり始めたのだったが、そのうち聖書の文句と儀式にすっかり酔ってくると、本式のミサを施行していた。といっても、黒ミサには違いなかったのだが。・・:

   まず膝まづいて十字を切り、間違えることなくミサを歌い始めた。入祭文の次には、主よ憐れみたまえ、そして、いと高き天にて神に栄光あれ、とつづき、集禱文ハレルヤの詩句、それからクレド・信経奉献ではパンを捧げ葡萄酒と水を混ぜ、聖盃・カリスを香で燻し、兄弟たちよ祈れ・オラーテ・フラトレスとつづき、更には、オレームス・祈りましょうと唱えた。この間僕はブリキの太鼓を強く弱く、短く長く巧みに叩いては伴奏を怠らなかった。それから、天にましますの祈りとなり聖体拝受から一同が聖餐を味わっている間、ぼくのブリキの太鼓がなおも響き渡り、コンフィティオル・われ告白と唱えるのだった。・・こうしてミサは滞りなく進行した。

  代理司祭の声は高まり、また低くなりして実に素晴らしく、彼は祝福の言葉を述べた。そして竟に、結びの言葉、「行けよ、ミサは終わった」イテ・ミサ・エスを洩らすと、精神の釈放が沸きあがってきた。信仰を固め、オスカルとイエスの名において彼らに世俗の逮捕が振りかかったのである。だが、ぼくの耳にはミサの間から自動車の音と長靴の踵が教会のタイルを鳴らす騒々しい物音が聞こえていたので、別段、驚くことはなかった。

 ***G.グラース「ブリキの太鼓」Ⅱ より

*「トリスタンとイゾルデ」: プラーテン 

 

       ペルシアのガゼル詩の形式美を駆使し、ドイツ詩に新たな地平を切り開いたプラーテンのロマンティックな詩から。

  --因みに、プラーテンは晩年のゲーテと多少の親交のあった形式美に優れた詩人。** 

 

 美の魅惑に憑りつかれし者は 

遁れる 術(すべ)もなく 

やがて 死中に慄(おのの)くとも 

  哀しむこもなし

美しき きわみの魅力に

 とりつかれしものは・・

 

愛のくるしみ厭わずに 

衝動をみたさんと 

のぞみ望みて突きすすむ

美の矢で的(まと)をし止めんと 

とどまること知るあたわず!!..

 

されど 望みし願ひの叶うことなく 

生の真の虚(むな)しければ

やがて 苦しむ者となり・・

願ひし望みの叶わぬとも

望みし願ひの虚しくとも.

泉のごとく涸(か)れたくと

花の香に死の匂ひ嗅ぐ

 

うつくしき きわみの魅惑に 

憑(と)りつかれし者は...

もはや 遁れる術もなく

死中の生に慄くとも   

泉のごとく涸れたくと 

* August Graf von Platen ;

  Tristan und Isolde

Aus; Dt. Lyrik vom Barock  bis  zur  Gegenwart  

   dtv. S. 162.      

*3歳のブリキの太鼓奏者オスカル:G.グラスより

 

 ・ぼくは太鼓にしがみつき3歳の誕生日以降、1センチも生長しなかった。ぼくは三歳児のままだったが、3倍賢い子供だった。つまり大人より背は低いが大人を凌駕していた。・・

  そのころ僕はいかなる場合にも政治家にはならない、まして食料品店主にはならないと決めていた。現状でいいと・・。

  小さな人と大きな人、小さな海峡と大きな海峡、ダヴィデとゴリアテ一寸法師と巨人、・・ぼくはいつまでも三歳児であり小人であり、背の伸びないままであった。

だが、ここへきてオスカルも発育を認めざるを得ない。いくらか生長したのだ。しかし今日、大人の誰が永遠に三歳児のブリキの太鼓奏者オスカルに対して耳目を驚かしたであろう。

  ギュンター・グラスブリキの太鼓」第一部より

 

* 山と雲と湖と : ゲオルゲより

 

七変万化の湖に

雲の上なる碧空が 

鮮やかに映しだされると

妖精の姿は早や消えて

色は薄緑から青色に

深紅から黄金色に融け合ひ

淡い光が反射され 

鏡のように煌めきだす:

傍らには 巨大な陰もいできて

湖面を見据ゑ 湖面は波打ち

蒼白き光を受けると

左は昏く 右は彩に煌めき

辺りに閑静が憩ふ:

なんという山と雲と湖の 

 聖なる静寂か! 

    * S. George : Der See  

*西洋の現代文学に関して:

                 

 ・西洋の現代文学に関して:--

世界をラジカルに懐疑し信じられないという立場の代表が、フランスの実存主義の作家、例えばサルトルとカミユならば、ドイツ文学圏のカフカは世界観はこれに近いが、異なるのはいかにしたら打開できるか問うところである。:

前者は、もし頼れるものがあるとすれば、それは一個の自己のみと主張するゆえ、そこには孤独が見え隠れするのだが、カフカには魂の救済願望があり永遠の秩序を問いかける。それゆえ、神からの呼びかけを必死になって捉えようとする。が、上からの声はいまだに届かずじまいなである。。

このことをカフカは長編「城」Das Schlossで麓(ふもと)にまでは辿り着けたものの決して城には入り込めない主人公をして象徴的に描いているのである。

Aus:   W. Grenzmann ,   Dichtung und Glaube

     Probleme und Gestalten der dt. Gegenwarts-

Literatur    S.29ff..

   Athenäum   Vlg.    1967...

W. グレンツマン「文学と信仰」より

 

*アヤックスの盾には絡みつく蛇が:

 

       * 8909- 9126  :

・この箇所はフォルキアスの台詞、「薄曇りの朝、輝きまばゆく真昼の太陽よ!.」以下、第三幕その1の最後までの場面であるが、それまでのヤンブスのトリメーター、短長・抑揚格の3音格詩がトロケーウスの長短・揚抑格のテトゥラメーター、即ち、4 歩格・4詩格からなる詩行にとって代わっている。

 

  因みに、テトラtetra-とは、vier、4を意味し、これも古代ギリシアの悲劇に倣ったものである。

  フォルキアス :

見てのとおり アヤックスの盾には 

絡(から)みつく蛇が描かれ 

テーベを攻めた7人の勇士たちも その盾に

意味深い図柄をつけておった。

夜空に輝く月や星も 女神も 

    英雄もあった。

  ・9035 ~:

梯子(はしご)や剣や松明(たいまつ)や 

威嚇する攻め道具も 様様な図柄になった。

また ゲルマンの勇士たちも 先祖代々 

そうした紋章をつけ、 

獅子や鷲 鳥獣の爪や嘴 

水牛の角も鳥の羽も 

孔雀の尾も薔薇もあった。・・

金銀 青赤の縞模様の図柄も 

大広間に 列をなし掛かっている。

*Ajax fuhrte ja geschlungne Schlang'  im Schilde,

        Wie ihr selbst gesehn. 

 Die Sieben dort vor Theben trugen Bildnerey'n 

Ein jeder auf seinem Schilde ,reich bedeutungsvoll.

Da sah man Mond und Stern'

 Am nachtigen Himmelsraum,

Auch Gottin, Held und Leiter ,Schwerter,

Fackeln auch......

          ***  

*アヤックス  Ajax:  アキレスに次ぐ英雄。

  カサンドラを誘拐した。

・7人の勇士: ティドイス、カバノイス他で、

テーベ Theben古代  ギリシア・ベオティーエンの首都を攻めた

   *****

この韻律学・Metrikに関しては、ハンザー版ゲーテ全集、18-1. Letzte Jahre 1827-1832.のなかのKommentar,Faust Ⅱ・3 Akt・S.922-S.1023.を参照。

Aus ; GOETHE SAMTLICHE WERKE 18-1

   Letzte Jahre 1827-1832  HANSER VERLAG 

      Munchner Ausgabe   S.922-1023. 

 

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