HERR*SOMMER-夏目

現代ドイツ作家・詩人の紹介を主に・・・

*「若い二人」Die Beiden: ホフマンスタール

 

 

       「美しき惑ひの年」;Das Jahr der schonen Tauschungen はカロッサ;Carossaの医師を目指して学ぶ学生時代を扱った短篇で、こんな詩も挿入されており、前に訳したことがあり、親しみある詩である。:     

「詩だよ!.. まだ印刷されてない。 詩人の自筆だよ」

フーゴーは手に封書を持っていて、それを激しく振ってみせ、遠くから期待しておれという意を伝えていた。

「デーメル ,Dehmel か?...」と私は大声で云った。

「いや、デーメルじゃない。だが、新しい時代の産んだ最美な詩の一つさ・」

私たちのもとに来るや封書から、早速、取り出した白い紙片をみた。投げやりではあるが、個性豊かな筆跡で書かれていた。作者の名は書かれていなかったが、表題は「二人」Die Beiden と認められていた。。。

       「若いふたり」:

ささげ運びし杯と

輝き競ふ乙女の顔・かんばせ

あゆみは軽ろく

縁(へり)から一滴(ひとしずく)も零れなく・・

一方 手裁(てさば)きはしかと軽やかに

鞍の上からみやびの をのこ 

華やぐ姿もゆたかにて

駒を事もなげに止めいでし 

さあれ いましもいと軽く

ささげし杯とりたるも

 たがいに二人の

 手と手はかち合わず

 深紅の酒は 零れをり

   ***

    

因みに、詩人の名はホフマンスタールHofmannsthal で、 彼はシュニッツラーと並び、19世紀オーストリアの世紀末を代表する劇作家であり、わが国でもよく知られている。

 

*恋のいろはの手習いも結構・:メフィストフェレスの闖入 

 

  ・9419- 34行: Phorkyas  

次のフォルキアスの台詞は、トロケーウス揚抑・長短格の4脚で書かれ、パロディー化しつつ韻を反復している。zB. 

21行までは3回、9422行以下は3行ごとに5回、韻を踏んでいいる。例えば、こんな風に:

Fiebeln-Liebeln-Grubelnと3回、そしてZeit- weit-Streit- Geleit-bereit,  ...usw....

  ところで、この幸福なヘレナとファウストの運命の出会いの一瞬に闖入してくるのは、悪魔フォルキアスに扮したメフィストフェレスである。

  9413 ~ :

  恋のいろはの 手習いも結構!..

戯れつつ 色恋の穿鑿(せんさく)も するがよい

そして 穿鑿しつつ 暢気(のんき)に色恋するもいい

だが 今 そんなときでもあるまい 

遠雷の轟く音が 耳に入らぬか

ラッパの高らかな響きが 聞こえぬか

破滅が 迫っているのですぞ!.. 

メネラス王の大軍が 攻め寄せて来るのですぞ 

激戦は必至! 避けられは しないのですぞ 

絶世の美人との 戯れた時間のロスに

 四面楚歌は 必定だ!

勝ち誇る軍勢が相手では ダイフォブスのように

斬り刻まれてしまうものを!!...

                **

Daiphobus: ダイフォブス: ギリシア神話

 スパルタの王子・パリスの弟で、兄の死後ヘレナと結婚し、メネラスに殺された。

因みに、パリスはメネラスの妃・ヘレナを奪い、トロヤ戦争が起きた。

        9422- :

 Doch dazu ist keine Zeit.

 Fuhlt ihr nicht ein dumpfes Wettern ?

 Hort nur die Trompete schmettern,

       9425-:  

Das Verderben ist nicht weit.

 Menelas mit Volkes-Wogen

  Kommt auf euch heran-gezogen;

  Rustet euch zu 

 

 

* デュレンマットの「貴婦人、故郷に帰る」:

  

「貴婦人、故郷に帰る」はこんな内容である。:主人公のクララ・ヴェッシャーは若いころ、イルから誘惑され貞操を弄ばれ、娼婦と誹謗を受ける。が、世界で最も富んだ婦人となった。その彼女は62歳になると身体的には衰えてきたものの、滑稽なほどめかしこみ生まれ故郷を訪れる。この折り、彼女は既にグュルレン市の産業と商業を代理人を通して内密に買い占めるや、停止状態におとしめていた。かくして、貧窮に喘ぐ市民は富裕のクレール、とはつまり名前を変えたクララだが、彼女が自らが育った市に救いの手を差し伸べてくれるものと信じていた。が、クレールこそ市の経済困窮の首謀者とは知らない。彼女は市の建て直しに金銭の援助を求められると、その代償として、以前の誘惑者で裏切られた商人のイルに恥辱を加え殺害すれば、市を元の健全な状態に戻すというのである。何故なら、人道こそ、とクレールは云うのである。人道こそ大富豪の取引には相応しく、私の財力をもってすれば市の秩序は必ず回復し確立できる。そして、世間は私を娼婦として蔑んだが、今度は市と世間を娼家としてみせしめるのだ。景気回復にはギュルレル市に復讐をもってするしかない。これを聞いた市長は憤激し拒絶したが、止むにやまれず受け入れざるを得なくなると、畢竟、全体の安寧と繁栄のために正義の実現という口実の下に、連帯責任で決断してしまう。その際、富豪の貴婦イルには、固より、罪の意識と贖罪の用意が芽生えてきていたのは云うまでもないが、どうすることもできなかった。

この悲喜劇は最後にコーラスで、イルの大胆さを或る意味で勇敢な行為として、イロニーとして是認しているのである。

  ***

*この悲喜劇は《正義もまた、相対的なもの》という一種のパロディー作品ではある。

Aus: K.Rothmann . Die dt.sprachige Schriftsteller seit 1945

   Reclam  ebd. S. 116ff...

Durrenmatt デュレンマット :1921 -  90. 享年69歳。

   スイスの劇作家

Der Besuch der alten Dame ,tratgische Komodie  1956.

     

 

*「饅頭男」が誹謗と中傷の弁護をする : W.ラーベ抄 ⑪

 

       私はこうして、25 歳で発表した処女作「雀横丁年代記」以来、二十代には19篇、三十代 には17篇、四十代では16篇、五十代では10篇と発表してきたのだが、中でも、60歳の時に書き上げた「シュトップフクーヘン」(饅頭男)*44は、ある意味でその頂点に達しえた作品と思えてくる。いや、そればかりか、いまなお振り返りみても、この作品に最も愛着を覚えているのだ。

  この作品の主人公の名はハインリッヒ・シャウマンというのだが、彼はその旺盛な食欲と、ものぐさ(*無精なこと)のために、<饅頭男>と綽名(あだな)されている奇人だが、その彼が、あまり人付き合いのよくない農夫クヴァカッツが、或る殺人犯として嫌疑をかけられると、彼への誹謗と中傷にたいし、弁護の手を差し出してくれたため、信頼を得た。饅頭男・シャウマンはその後、これが機縁でクヴァカッツの娘・ヴァレンティンと結婚し、最後には、真の犯人は誰か解明していくのだが、重要だったのは、表面上での犯罪事件にあったのではなかった。そうではなく、大切なのは、そこで対峙(たいじ)させた二人の若者、ハインリッヒとエドアールトの世の中をみる目と、その生きざまにあった。つまり、エドアールトを饅頭男の傍らに常に置くことで、物語の枠を語らせていたが、<饅頭男>のハインリッヒは、竟には、アフリカへなぜか、旅立っていく*45/のだ

42.& 43.  Vgl.     ドイツ文学史東大出版会、S.193.  

                      1977...参照。

44. 「シュトップフ・クーヘン」饅頭男。

  Stopf-kuchen.      60歳の作。

45.  Vgl.   K.  Rothmann : Reclam.   a.a.O.  S.196...  

  ***

Stopfkuchen : 晩年の作。1891年:--航海日誌と殺人物語、:

 Wieder an Bord !...Es liegt mir daran,gleich in der ersten Zeilen dieser Niederschrift  zu beweisen, oder darzutun, dass ich noch zu den Gebildeten mich zählen darf. ---Namlich ich habe es in Sud-Afrika zu einem  Vermogen gebracht , und das bringen Leute ohne tote Sprachen, Literatur, Kunst-Geschichte, und Philosophie eigentlich am leichtesten und besten zustande.  Und so ist es im Grunde auch das Richtige und Dienlichste zur Ausbreitung der Kultur ; --denn man kann doch nicht von jedem  deutschen Professor verlangen, dass er auch nach Afrika gehe, und sein Wissen an den Mann , das heisst an den Buschmann bringe, oder es im Busche sitzenlasse , bloss --um ein Vermogen  zu machen..            

                

*愛と惜別 : ザラー・キルシュ 

 

もう 行ってもいいのよ: 乙女は 月に云う

大きな馬車に 積み込まれた月

白い歯を見せ 頷うなづくと

転がるように 月は立ち去っていった

扉の引手を 押さえつけないで:

乙女は 風に云う

すすと雨まじりの風が 

 大粒の霰あられみずからをも 鞭打っている

もう 行ってもいいのよと

乙女は もはや    語りかけることもない

泪にも涸れ 夢にも厭

ただ いまは 眠りにつきたいだけ

邪魔だてするものも いなくなり

こころが 晴れ上がったのだから

  Sarah Kirsch ; Dreistufige Drohun

   Aus: Dt. Liebes-gedichte  

Reclam   ebd.  S.  55. 

 Sarah Kirsch : Drei-stufige Drohung 
 Du willst jetzt gehen ?
 Das sag ich dem Mond !..
Da hat sich der Mond
im Grossen Wagen verladen,
 der fuhlt mit mir , weisszahnig
 rollt er hinter dir her !.. 
 Die Klinke druckst du ?..
Ich sag es dem Wind !
Er schminkt dich mit Russ und Regen
peitscht dich mit Hagel-kornern,
glasmurmel-gross.  
Du musst jetzt fort ? Gut, ich sag es keinem.   Ich werde ohne Tranen
 und Traume schlafen ;
nichts hindert dich..                                           
                                     
 

*「人間の哀感」と徒然草・第七段  :

 

 「あだし野の露」で始まる徒然草・第七段にみえる 深い人生観。

  これと似て、ドイツの最も傑出したバロック詩人、グリューフィウスにもこんな詩がある。        

      人間の哀感 Menschliches Elende :

 嗚呼 人間:  それは  何?...

 かなしみの 棲家?...偽善に満ちた 幸福の塊?...

  この世の 鬼火?...それとも 安心できぬ 戦場?...

はたまた  忽ち  溶ける 雪片?... また 

瞬時に  燃え尽きる 蝋燭?...  

人生: それは  無駄の多い 戯れ?...そして 

逃避行?...ならば 何処へ?...

 肉体は 儚きものかは!?... 

脱ぎ捨てられた 衣服は存在しても 

虚(むな)しきは 夢ばかり 

  こころから 消え去りゆくものの おおく

・・ そも 川の流れに似て  泡となり 

 栄誉も   名声も 忽ち 消えゆくが必定・・ 

こうして 息は絶え 息とともに 消え

足音もなく 近づきくるものは

深淵にして 静謐なる 奥津城(おくつき)・・ 

噫 かくのごとく 吐露したとて 何になろう?...

せめてもの 願ひは 天翔る存在に

ならんことかと!!..

  ***

   Gryphius   : Menschliches Elende,     

  Die Eitelkeit der  Eitelkeiten

 Aus: Dt. Barock  Lyrik  ,   

 Reclam   ebd.  S. 109...

 

 

   

*トロヤの娘の合唱隊とフォルキアスとの悪口合戦:「ファウスト」第二部 第三幕 より

 

* 8810- 8825 行 :

 この箇所は、詩句問答Stichomytie 、隔行・対話形式で書かれているが、それはトロヤの娘たちによる合唱の女たちと、フォルキアスの間で交わされる華々しい口争いで、売り言葉に買い言葉の、互いに、侮蔑と誹謗の言葉を投げ合う、悪口合戦の態をなしている。

* 8810  ~:

・合唱を指揮する女 :Chor-führerin :

お美し方のそばでは 醜女(しこめ)は いっそう

 醜くみえるのね

・フォルキアス Phorkyas :

 賢明なひとの そばでは わからずやは 一層

 分らず屋にみえる

・合唱の女 ⒈ Choretide 1. :--

 父はエレブス 母は暗黒の闇と名乗るがいいわ

・フォルキアス:

 お前は 恥知らずのスキラと 従姉妹だな

・合唱の女 2.: 

 あんたの系図には いろんな妖怪の名が 

  書いてあるのね

・フォルキアス:

 お前は地獄へいき 親戚でも探すがいい

・合唱の女 3.: 

 地獄にいる女でも あなたには 若すぎて

  手に負えないわ

・フォルキアス :

 そういう お前には 盲目の爺さんテイレジアスが

お似合いだ 色目を存分 使うがいい

・ 合唱の女 4.: 

 オリオンの乳母が あなたの玄孫(やしゃご)ね

・フォルキアス :

 お前は ハルビエの子だな 厠(かわや)で

  育てられたという・・

・合唱の女 5.:

 何を お食べになれば そんな細身の 

お痩せになられた 骨皮ばかりでいられるのかしら

・フォルキアス :

 お前の 吸う血なぞは 真っ平ごめんだ 

・合唱の女 6.:

 あなたは死骸も同じ  なのに まだ 死骸に

 ありつきたいと いうのね

・フォルキアス :

 減らず口の お前の口の中で光っているのは

 ヴァンビールの歯だな

・合唱を指揮する女 :

 あなたの正体を暴(あば)けば その口は 

 塞(ふさ)がったまま 二度と開けられないわ

・フォルキアス :

 そういう おまえから先に 名乗るがいい

 そうすれば 謎など 一目瞭然だ

        ***

*Wie haßlich neben Schonheit zeigt sich Haßlichkeit!..(8810)

    Wie unverstandig neben Klugheit Unverstand !...(8818)

Das deine stopf' ich wenn ich sage wer du seyst..(8824)

 So nennt dich zuerst ,das Rathzel hebt sich auf..(8825)

   **

*エレブス Erebus: 地下の最も深い暗黒の底の意がある。

*スキラ Scylla : 海の神 グローカス Glaucusに愛されたニンフキルケ Circe によって怪物の姿に変えられた。メッシーナ海峡に身を投じ、六つの頭を持ち、男をくう海の妖怪。

*ティレジアス Tiresias: テーベの盲目の老預言者

*オリオン Orion: 巨人で美しい漁師、狩人。

*ハルピエ Harpyie : 少女の頭をした鳥の怪物。 ハルピュイア

*ヴァンピール  Vampyr : 男の肉を喰い、血を吸う吸血鬼。

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