* ドイツ訳詩選より
懐かしき夢をみた: 五月の夜のこと ぼくたちは 菩提樹の木蔭(こかげ)で 永久(とわ)の愛を誓って いた それは新たな誓い くすくす笑ひ 愛撫し接吻を交わし ぼくは誓いを こころに留めた けれども ぼくを苦しめていたとは おお 恋人よ!... きみの誓いは美しく…
クララは1644年生まれ。わが国でいえば江戸時代の前期、近世文学期にあたり、芭蕉が生まれた年と重なる。また、「好色一代男」の戯作者・西鶴はそれより2年前に生まれているが、それはともかく、クララはバイエルンやウイーンで説教をおこない、当時はペスト…
ゲーテ晩年の「西東詩集」には新たな恋愛対象として出逢ったマリアンネ・フォン・ヴィレマーが関わっている。 このマリアンネは ズライカとして「西東詩集」に重要な形姿として現われてくる。つまり、最後の恋愛体験としてのマリアンネ体験によって、ゲーテ…
憧れと愛に生きた女を 歌うがいい 英雄は 存在を貫き 没落も口実となす だが 精魂尽きれば 塵に帰る・・ 地から轟き渡る 巨大な声 聴け それは神の声!!...だが 堪ええぬなら 風の声に 耳を傾けるがいい 若い死者に代わって その嘆きの声を! )) ) Rilke: Duin…
千年ものあいだ 寺院の廃墟のもとで わたしは 埋もれていた: 夕陽を受け 羊は草を 喰(は)み 花咲く草原で 羊飼いが 角笛を 吹き鳴らし そんな年月の巡るなか 千年ものあいだ 土の下に 横たわっていたのだ: だが この日 いま蘇り この眼で 緑の水を見つめる …
苑みな蒼き冷湿の 身を切るばかり 風が吹き 葉は ことごとく 払われて 芥とともに 朽ち果てる 初雪 舞いて 煌めく結晶 落ちゆくままに 融け始め 枯れた枝から したたり 雪片の 沈みしとき 無常 覚ゆる 望みも果て・・ けれども 春の盛りに 若葉 芽吹き 樹木…
憧れと愛に生きた女を 歌うがいい 英雄は 存在を貫き 没落も口実となす だが 精魂尽きれば 塵に帰り 巨大な声が 地から轟き渡る 聴け それは神の声!!...だが 堪ええぬなら 風の声を 聴くがいい 若い死者に代わって 嘆きの声を )) ) Rilke: Duineser Elegien …
鐘の響きに 不思議な歓び 聞き覚えあり こころ惑いしあの頃は 力奪われ いまに至りて 怖れはなく 苛立ちもなく 高らかに 厳かに響きわたれば 今は 希望と忘却と宥恕の声!..... S. George: Die Glocken ゲオルゲは1868年生まれで、ドイツ抒情詩に新たな言語芸…
懐かしき 夢を みた: 五月の 夜の こと ぼくたちは 菩提樹の 木蔭(こかげ)で 永久(とわ)の 愛を 誓って いた それは 新たな 誓い くすくす 笑ひ 愛撫し 接吻を 交わし あった ぼくは 誓いを こころ に留めた けれども ぼくを 苦しめて いた とは おお 恋人よ…
霧がたちこめ 木の葉が落ちる ワインを注(つ)げよ まろやかなワインを !... この憂き日を かがやかしい日にしたいのだ 外は荒れ狂っているが この世はすばらしい かくも 神々しきゆゑに!..... けれども ときおり こころは泪に濡れる だが それに構ふてゐては…
衝動に 駆られたように 森にゆくと 森は 鳥のさえずりで 辺りいちめん 響き渡っていた さあ 無辜の子らよ 純朴なる 民よ おまえたちの メロディーの なんと 爽やかなことか 愁いなく 善きこと 神を讃え 早朝から 夜おそくまで いそしみ 励み 啼きつづける お…
ゲーテの晩年になった「西東詩集」は、詩的様式が散文に著しく近づいていった。そこには体験内実と表示される意識との間に、<距離>があったからである。故に、そこでは半ば抒情的に教訓が語られるという表現形式が多々見られるのである。言い換えるならば、…
ゲーテ晩年になった「西東詩集」の萌芽として、新たな恋愛対象として出逢ったマリアンネ・フォン・ヴィレマーがいる。このマリアンネはズライカとして「西東詩集」に重要な形姿として現われてくる。つまり、そこには最後の恋愛体験としてのマリアンネ体験に…
さて、「西東詩集」の理解には次の三つの視点からみてみるといい。 その①はゲーテが遠い場所、東洋に目を向けたのは何故か、そして異国の詩人ハーフィス(1320-1389)に模範を執ったのは何故かということ。 その➁はいくつかの書からなるこの詩集の内実とその区…
「西東詩集」West-Ostlicher Divanはゲーテ晩年(65-66歳)の作である。1749年生誕のゲーテは1832年に物故するまで、83年という星霜を生き抜き、かつ、その大半を休むことなく精力的に活動しつづけた文豪・詩人であり、その間にはワイマールという小公国で宰相…